2011 Fiscal Year Annual Research Report
圧力下擬2次元有機導体で実現するディラック粒子状態のサイクロトロン共鳴による研究
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22340100
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
太田 仁 神戸大学, 自然科学系先端融合研究環分子フォトサイエンス研究センター, 教授 (70194173)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
櫻井 敬博 神戸大学, 研究基盤センター, 助教 (60379477)
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Keywords | 物性実験 / 高圧 / 強磁場 / 有機導体 / 磁気光学測定 |
Research Abstract |
最近,圧力下の2次元有機導体α-(BEDT-TTF)2I3のフェルミ面近傍の分散関係が,質量ゼロのディラック粒子と同じ線形なエネルギー-運動量(波数)の分散関係(デッラックコーン)になっていることが,非常に温度依存性が小さい電気伝導性をはじめとしたその特異な輸送現象を説明するために理論的に提唱され,大変注目を集めている。間接的にディラックコーンの存在を示唆する測定はいくつか存在するが,この圧力下α-(BEDT-TTF)2I3で確かにディラックコーンが実現しているということを示す直接的な実験はまだ存在しない。そこで,ディラックコーンに特有なサイクロトロン共鳴(CR)の磁場依存性(通常磁場Bに比例するCRと異なり,Bの平方根に比例)を,我々がこれまでに開発した圧力下の高周波強磁場磁気光学測定装置で観測することにより,α-(BEDT-TTF)2I3にディラックコーンが存在することを実験的に検証するとともに,それを特徴づけるフェルミ速度を決定するのが本研究の目的である 平成22年度、内径3mmで,外径を10mmに増加させた圧力セルで1.3GPaの圧力発生に成功したが,内径3mmの圧力セルを用いた透過電磁波強度の検出による圧力下CR共鳴測定では検出感度が十分ではないことが明らかとなってきた。そこで,今年度は電気抵抗検出によってCR共鳴を検出することを試みた。圧力セルは、外径10mm、内径3mmのCuBe製シリンダーと,内部部品として一部ZrO2を用い、電磁波照射の下、抵抗測定が可能なものを作製した。その結果、1GPa弱の圧力発生に成功すると共に、圧力の印加に伴うα-(BEDT-TTF)2I3の金属絶縁体転移温度の低下が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成22年度、内径3mmで,外径を8mmから10mmに増加させた圧力セルで1.3GPaの圧力発生に成功した。この圧力では,2次元有機導体α-(BEDT-TTF)2I3において,4.2Kにおいてディラックコーン状態が形成されていると期待される。そこで,理研の加藤よりFET用のα-(BEDT-TTF)2I3薄膜の供給を受け,圧力低温下での電磁波透過測定を試みた。測定を繰り返すと後述するいくつかの問題点が浮かびあがってきた。そこで,申請書の「研究が当初計画どおりにすすまない時の対応」に記載したように,電気抵抗検出によってCR共鳴を検出することを平成23年度に試みた。テストを行うため,より高い圧力を発生可能とするNiCrAl合金シリンダーではなく,より製作が容易なCuBe製シリンダーとした外径10mm、内径3mmの圧力セルを準備した。電気抵抗測定の場合,下部のピストン部分から電極を挿入するため,この部分はCuBe製となり,上部ピストンだけが電磁波透過可能なZrO2となったため,CuBe製シリンダーにもかかわらず,1GPa弱の圧力発生に成功した。そして,α-(BEDT-TTF)2I3の金属絶縁体転移温度の低下を確認することに成功した。しかし,12月に発生したヘリウム液化機の故障と,国内のヘリウムガス不足から業者からの液体ヘリウム購入も困難となり,この先の実験を平成24年度5月にヘリウム液化機が部分運転を行う時期まで延期するためヘリウム代の一部を平成24年度に繰り越した。そして圧力下の電気抵抗測定を平成24年度初めに行った結果,後述する問題点が明らかとなってきた。しかし,一連の実験から測定のS/Nを上げるためにやはり圧力セルの内径を増加する必要があるという結論にいたったのは,平成23年度の大きな進展ということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,内径3mm,外径10mmの透過型圧力セルを用いたα-(BEDT-TTF)2I3薄膜の透過測定によるCR測定では以下の問題点が浮かびあがった。1)測定を繰り返すと圧力セル部品のできばえによるためと思われるが,1.3 GPaに到達できないことがたびたび発生する。2)通常測定の内径6mmに比べ,圧力セルの内径3mmは電磁波強度が1/4以下となり,また金属シールが高圧領域で広がり電磁波に対する実効的な内径がさらに小さくなり透過光強度のS/NがCR測定にとって十分でない。また,圧力下の電気抵抗測定方式でも,圧力不足と内径が3mmに制限されていることによる計測のS/N不足が明らかとなってきた。そこで,これらの問題点への方策として以下が考えられる。1)圧力セルの設計を変更して最大発生圧力を大きく向上して,その8割くらいの圧力で運用することにより,α-(BEDT-TTF)2I3のディラックコーン状態が安定的に実現できる状態を実現する。2)透過光強度のS/Nを向上するには圧力セルの内径を増大し,かつ前述の最大圧力を増大できる仕様の圧力セルを開発する。したがって,平成24年度は,これらの方策を施して研究を推進していく。
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