2012 Fiscal Year Annual Research Report
圧力下擬2次元有機導体で実現するディラック粒子状態のサイクロトロン共鳴による研究
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22340100
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
太田 仁 神戸大学, 自然科学系先端融合研究環分子フォトサイエンス研究センター, 教授 (70194173)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
櫻井 敬博 神戸大学, 研究基盤センター, 助教 (60379477)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 物性実験 / 高圧 / 強磁場 / 有機導体 / 磁気光学測定 |
Research Abstract |
最近,圧力下の2次元有機導体α-(BEDT-TTF)2I3のフェルミ面近傍の分散関係が,質量ゼロのディラック粒子と同じ線形なエネルギー-運動量(波数)の分散関係(デッラックコーン)になっていることが,非常に温度依存性が小さい電気伝導性をはじめとしたその特異な輸送現象を説明するために理論的に提唱され,大変注目を集めている。間接的にディラックコーンの存在を示唆する測定はいくつか存在するが,この圧力下α-(BEDT-TTF)2I3で確かにディラックコーンが実現しているということを示す直接的な実験はまだ存在しない。そこで,ディラックコーンに特有なサイクロトロン共鳴(CR)の磁場依存性(通常磁場Bに比例するCRと異なり,Bの平方根に比例)を,我々がこれまでに開発した圧力下の高周波強磁場磁気光学測定装置で観測することにより,α-(BEDT-TTF)2I3にディラックコーンが存在することを実験的に検証するとともに,それを特徴づけるフェルミ速度を決定するのが本研究の目的である これまでの研究から、パルス磁石のボア径に収まる圧力セルは外径はせいぜい10mm程度までで単層シリンダーしか利用できず、また最大発生圧力が不十分であることが分かってきたので、平成24年度はボア径の大きな無冷媒型超伝導磁石と、外層をCuBe、内層をNiCrAlとする二層のハイブリッド型圧力セル(外径28mm、内径5mm)を利用した新しいCR共鳴装置を開発した。CsCuCl3という反強磁性体をテスト試料として用い、最大で2.7GPaの圧力発生に成功した。また最小スピン検出感度として1013spins/Gという感度を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度、安定的な高圧発生のためには最大圧力を向上させることと,電磁波に対する応答のS/Nを向上させるには内径3mmを増大させることの必要性が明らかとなった。そこで,平成24年度はパルス磁石のボア径に収まる外径の単層シリンダーにはこだわらず新たな圧力セルの設計を目指した。新圧力セルの設計に関しては,このような経験が豊富な東大物性研の上床教授の協力を得た。その結果外層をCuBe、内層をNiCrAlとする二層のハイブリッド型圧力セル(外径28mm、内径5mm)を開発し,最大で2.7GPaの圧力発生に成功した。また,高圧で金属シールがはみ出して電磁波の通り道を遮る問題も,テフロンチューブシールの採用によって解決されたことも大きな進展であった。ただ,後述するようにピストンを十分透過する電磁波が400GHzであるという課題が残った。一方,圧力セルの外径が増大したため,パルス磁石で磁場を印加できなくなったので,既存の内径100mmの無冷媒型超伝導磁石(最大10T)とクライオスタットを用いた新しいCR共鳴装置を開発した。そして,CsCuCl3という反強磁性体を圧力効果のテスト試料として用い,4.2Kにおける反強磁性共鳴の圧力効果の観測に成功し,最小スピン検出感度として1013spins/Gという感度を達成した。この感度は,これまでのパルス磁石を用いた測定より2桁高いものである。このように,一連の開発と実験から限られた周波数範囲とはいえ,α-(BEDT-TTF)2I3のディラックコーン状態が実現するのに十二分な圧力を安定的に発生可能となり,測定感度も向上したことは,平成24年度の大きな進展ということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に開発したハイブリッド型圧力セルは,最大で2.7GPaの圧力発生に成功し,内径も5mmに拡張したことにより透過光強度も大幅に向上した。したがって,α-(BEDT-TTF)2I3のディラックコーン状態に特有なCR観測の準備は整ったかに見えたが,新たな課題が明らかとなった。今回,圧力を増大させるためこれまでより強度が強いといわれているZrO2ピストンを採用したところ,以前のZrO2ピストンではTHz領域まで電磁波の透過が十分であることを確認していたにもかかわらず,新しく採用したZrO2ピストンでは400GHz以上の電磁波の透過が2桁近く低下することが観測から明らかとなった。この原因は,強度を増すためにまぜられた成分によるものと推察されるが企業秘密の部分もあり,明らかではない。そこで,解決の方策としては強度が十分かつ400GHz以上の電磁波の透過も十分なZrO2材料を探し出し,ハイブリッド型圧力セル用ピストンとして採用することである。これにより,α-(BEDT-TTF)2I3のディラックコーン状態に特有なCRを観測する条件が整い,観測が達成されると期待される。
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