2011 Fiscal Year Annual Research Report
スピンホール効果を用いた5d電子系酸化物におけるスピン・軌道相互作用の学理構築
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22340108
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
松野 丈夫 独立行政法人理化学研究所, 高木磁性研究室, 専任研究員 (00443028)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福間 康裕 独立行政法人理化学研究所, 量子ナノ磁性研究チーム, 客員研究員 (90513466)
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Keywords | 強相関系 / スピン・軌道相互作用 / 5d電子系 / スピンホール効果 / スピントロニクス |
Research Abstract |
5d遷移金属酸化物におけるスピンホール効果の検出に取り組んだ。前年度はルチル型IrO_2のアモルファス・多結晶薄膜においてスピンホール効果を観測しており、単結晶薄膜で同様の観測を行うことでスピンホール効果の起源(内因性、外因性)に迫ることができる。その準備段階としてTiO_2(001)基板上に単結晶IrO_2薄膜を作製することに成功した。最低温での電気抵抗率は10μΩcmとなり、多結晶薄膜に対して一桁以上低い値を示した。また、様々な試料に関してスピンホール効果の測定を適用するために、スピンダイナミクスを用いたスピン流の生成技術を確立すると共に動的スピン流の緩和に関する知見を得た。並行して特異なスピンホール効果の舞台となりうる5d電子系酸化物の探索的な薄膜合成を行った。SrTiO_3(001)基板上に半金属であるSrIrO_3とバンド絶縁体であるSrTiO_3を1単位格子ずつ積層した人工超格子を作製し、モット絶縁体となることを見出した。これはスピン・軌道相互作用の支配的なモット絶縁体として良く知られたSr_2IrO_4と定性的に同じ振舞いであり、スピン・軌道相互作用と電子相関の協奏に対する結晶構造や次元性の効果が明らかになった。 SrTiO_3(001)基板上に作製したLaMnO_3/SrMnO_3超格子のMn L_3吸収端における軟X線共鳴散乱を測定し、超格子構造に由来するピークに加え、低温で磁気変調ベクトルを観測した。軟X線スペクトルの解析により、ヤーン・テラー効果による散乱を磁気散乱・電荷散乱と分離することができ、その温度依存性がスピン秩序と強い相関を示すことを見出した。すなわち、L吸収端ではd軌道への電気双極子遷移が許容であることを活用し、物性を担うd電子の秩序状態を明らかにしたものであり、硬X線領域でのL吸収端共鳴X線散乱が可能である5d電子系の電子状態にも適用可能な知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
所期の目的であった5d電子系におけるスピンホール効果の観測をすでに達成している。加えて、特異な物性を示す新物質の探索的薄膜合成においても有望な系を開拓しており、スピン-軌道相互作用の学理構築への展開が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
スピンホール効果の測定を幅広い系に適用する。現状ではスピンホール効果の測定には精緻なデバイス作製が必須である。これまでにスピンホール効果を遷移金属酸化物に対しても適用できることを実証したことは大きな進歩であるものの、結果をスピン軌道相互作用の学理にまで高めるために測定手法の改善およびさらなる物質開発を推進する。
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Research Products
(6 results)