Research Abstract |
本研究課題においては,(1)ボーズ系,とくに多成分系の新しい現象(対超流動相,渦糸乖離転移に及ぼすトポロジカルチャージの非可換性効果,など)の解明と,そのための有限温度凝縮体のダイナミクスを扱う方法論の確立,(2)光格子で近い将来実現可能な有効スピンモデルで期待される新しい量子相転移(ネール相と磁気4重極相の間の脱閉じ込め転移など),(3)テンソル積ネットワーク法の改良とそれを用いた量子多体系の研究,を行う.(1)のボーズ系に関しては,多成分ボーズ系の大規模計算を実施し,とくに対超流動状態を含む相図を得た.また,光格子で実現されうる双2次相互作用を持った量子スピンモデルの臨界性質について検討した.平成23年度は,多成分ボーズ系の大規模計算を更に進め,相図をより広いパラメータ空間に拡張した.さらに,双極子相互作用の存在する場合の計算を進めて,双極子相互作用によってストライプ的に粒子が整列する相が安定化することを示した.また,ソフトコア系では,単純な余剰粒子描像では説明されない整合フィリングにおける超流動固体相が存在することを示した.トポロジカルチャージに関しては,通常のZ渦からの拡張として,Z2渦の存在する場合の統計力学モデルについてクラスタアルゴリズムを検討した.(2)の有効スピンモデルで期待される新しい量子相転移に関しては,モット相から空間回転対称性や並進対称性が破れた相への転移において,脱閉じ込め転移の機構が成立しているかどうかを確かめた.とくに,SU(N)JQモデルに関して,ダイマー秩序パラメータなどの計算を行い,脱閉じ込め転移のシナリオからの予想と比較した.(3)のテンソル積ネットワーク法に関しては,この方法を実際に利用して,三角格子量子スピン系,J1-J2モデルなどのフラストレートした量子スピン系における,非整合周期秩序相の存在範囲の概略を明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
この課題の目標は光格子系によって実現の可能性が高い新しい量子相を大規模数値計算によって解明,探索することである.そのために,ボーズ系におけるペア超流動相の様相や相図を明らかにすることに成功した.さらに,当初の期待を越えて,通常の超流動固体で想定されていた余剰粒子描像では説明されない領域に超流動固体相を発見した.また,脱閉じ込め転移に関しても,その存在をほぼ確立することに成功し,より詳細な解析的理論との比較の段階に入っている.テンソル積ネットワーク法についても,方法論の有効性を立証し,従来法では計算できなかった領域の計算にも成功しつつある.
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Strategy for Future Research Activity |
光格子系については,長距離相互作用系では,計算が収束するまでに長い時間がかかっており,拡張アンサンブル法の導入など,方法論上の更なる工夫によって,より信頼性の高い結果が得られるものと期待している.また,フェルミ粒子を含んだ場合などは,より根本的なレベルでの方法論上のブレイクスルーが必要であり,その可能性を検討したい.脱閉じ込め転移では,より大規模な計算が必要な段階に差し掛かりつつあるので,計算資源の確保やプログラムの更なる高度化が必要である.テンソル積ネットワーク法に関しては,より多様なネットワークの構造について計算を行う必要がある.
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