2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22340112
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中原 明生 日本大学, 理工学部, 准教授 (60297778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
狐崎 創 奈良女子大学, 人間文化研究科, 准教授 (00301284)
大信田 文志 鳥取大学, 工学研究科, 助教 (50294343)
大槻 道夫 青山学院大学, 理工学部, 助教 (30456751)
松尾 洋介 日本大学, 理工学部, 研究員 (40611140)
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Keywords | 破壊の制御 / レオロジー / 塑性流体 / メモリー効果 / 亀裂パターン / 乾燥破壊 / コロイド |
Research Abstract |
粉と水を混ぜて作ったペーストは塑性を持つゆえに、ペーストに加えられた揺れや流れなどの力学的外場を記憶し、そしてその記憶はペーストを乾燥させることによって発生する亀裂パターンとして視覚化される。昨年度、低濃度ペーストが流れを記憶するメカニズムを調べたところ、水中で粉粒子が帯電していてクーロン斥力が働く場合は流れを記憶できないことがわかった。この理由は粒子問のクーロン斥力が流れの中での粒子ネットワークの形成を阻害しているからであり、塩を添付することによりクーロン斥力を遮蔽すれば流れを記憶できることも確認できた。今年度は高濃度ペーストが揺れを記憶するメカニズムを調べた。ペーストが揺れを記憶する高濃度な状況では粉が渋滞して強い粘性・塑性を持ので、そのメカニズムは当初、非弾性衝突する粒子系による渋滞構造、ジャミングと密度揺らぎの形成に近いと考えられていた。しかし、粉粒子の粒径の違う二つのペーストの比較実験をしたところ、どちらも揺れを記憶するが、小さい粒径のペーストのほうが粘性・塑性が高く、相対的に小さな濃度でも揺れを記憶できることが分かった。もしも非弾性衝突系の描像だけで良ければ、粉の占める体積比が同じであれば粒径の大きさに寄らず同じ振る舞いをするはずである。この結果は、揺れの記憶の形成には粒子問の表面力(引力)が重要な役割を果たしていることが分かる。ここで、高濃度であれば帯電していても揺れは記憶できるが、これは高濃度で粒子が至近距離にひしめく場合はクーロン斥力よりも表面力のほうが影響力が大である事で理解できる。また、ペーストに界面活性剤を添付し実験をしたところ、界面活性剤が粉粒子を取り囲んで表面力を阻害し、その結果ペーストが流れや揺れを記憶する能力を消すことができることも分かった。以上の成果により、ペーストの記憶には表面力などの粒子間引力が重要な役割を果たしていることがわかった。粒子間相互作用を制御すれば、ペーストの記憶を制御でき、その結果破壊現象や発生する亀裂パターンを自由自在に制御できることになるので、工学的な応用を考えるとその意義と重要性は非常に大きいと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ペーストが揺れや流れを記憶する現象は2005年に初めて報告されたが、そのメカニズムにとって本質的に重要な要因が何であるかはしばらく謎であった。その候補として粒子の形状やサイズ分布などの違いが考えられたのだが、本プロジェクトにより最終的に粒子間に働く引力がメモリー効果には本質的な役割を果たすと示されたことは、大きな成果である。今後様々な手法で粒子間の相互作用をコントロールすることにより、ペーストのメモリーを自由自在に操り、その結果破壊をより精度よく制御する手法が開発されたことは、サイエンスとしてだけでなく工学的な応用面でも大きな発展である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、ペーストの記憶には水中での粒子間の相互作用が重要であることが分かった。工業的には粉を有機溶媒と混ぜる状況が多々あるが、実は溶媒に水ではなくエタノールなどの有機溶媒を用いるとペーストのレオロジーや外場を記憶する能力が大きく変化することが本研究グループの予備実験によってわかった。この現象が、溶媒中での粒子間の相互作用の変化ですべて説明できるか今後調べていく。また、これまでの手法では亀裂の伝播方向は制御できても、亀裂の発生位置までは制御できなかった。水平加振ではなく鉛直加振をペーストに加えると、ファラデー波が発生し、その結果ペーストが受ける外場の大きさや向きを局在化できるので、ペーストに残る記憶を場所ごとに書き分けることにより亀裂の発生状況を場所ごとにコントロールすることができると考えられる。このようにして、鉛直加振の手法を用いて亀裂の発生位置を制御する手法を開拓していく。
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