2011 Fiscal Year Annual Research Report
多次元分光スペクトルを用いた量子コヒーレンスの検出・制御の理論的研究
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22350006
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷村 吉隆 京都大学, 理学研究科, 教授 (20270465)
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Keywords | 散逸系の量子階層方程式 / 多次元分光 / 励起子 / 量子情報 |
Research Abstract |
本研究で用いる階層型運動方程式は有色ノイズを非接道的に厳密に解くことができるパワフルな手法である。近年は香港のYanグループやレーゲンベルグ大Kramerグループ等により、光合成アンテ系等、比較的大きな系の多次元分光スペクトルを計算できる程度に拡張されたが、その計算コストはまだまだ高い。幸い昨年度発売された新しいCPUは、それまでのものに比較し、処理能力が倍程度に向上し、これまでの計算を拡張できるようになった。具体的には2スピン系に2つの温度の異なる熱浴をつけてその熱流に対する研究を行った。この計算は温度の違う熱浴に対する2つの独立した階層を扱うことになり、計算コストは大変高いが並列化等の処理により初めて可能になった。この研究は量子系における熱流の概念を再検討するためのもので、その意義が大きい。結合強度が強い領域で熱浴とのエンタングルメントにより、通常の熱力学と熱流の様が大きくことなることを示した。計算速度をさらに早めるために、本年度はPCに取り付ける専用計算ボード(GPUボード)を購入し、それに対するプログラム開発も行った。系と熱浴との相関に関しても、より深く研究しBathentanglgmentという概念を導入して、その解析を行った。光合成FMO系についてこのような概念を導入することで、これまでの結果を変えるかについてもチェックを行った。電子移動反応についての2次元分光についても研究を開始した。溶液分子系に関する多次元スペクトルの研究についても積極的に行い、分子の電子状態の変化が赤外スペクトルに反映されるような分子動力学的手法の開発を行った。またTHz-Raman-THz分光など新たな分光手法の可能性をシミレーションにより追求した。研究成果はイギリス王立会議や、ヨーロッパCECAM等招待講演を通じて発表した。また本研究に関連した成果で、フンボルト賞を受賞し、ドイツ各地やスエーデンで講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
階層方程式の方法論自体は昨年度までの研究により基礎づけはされており、その適用範囲を広げるには数値計算上の高速化が必要なのであるが、幸い昨年度行った並列化が効果的であり、また新たに登場したCPUの並列計算処理速度が向上したため、当初予定した以上に大きな系を扱うことだできりょうになったため。
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Strategy for Future Research Activity |
化学の対象としてはより大きな系を扱う必要がある。そこで本年度より数値処理を高速で行うGPUボードに対するプログラム開発を行った。コーディングがうまくいけば、それだけで100倍程度速くなり、かなり大きな系も扱えるようになる。また計算手法自体を、香港のYANグループはパデ近似などで近似して効率的に解く方法を開発しているが、このような方法をさらに組み合わせることによって、比較的大きなスピン系のダイナミックスも調べられるようになると思われる。
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