2012 Fiscal Year Annual Research Report
多次元分光スペクトルを用いた量子コヒーレンスの検出・制御の理論的研究
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22350006
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷村 吉隆 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20270465)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 散逸系の量子階層方程式 / 多次元分光 / 励起子 / 量子情報 / 共鳴トンネルダイオード / 量子ラチェット |
Research Abstract |
報告者が開発した縮約化された階層方程式は、散逸系の量子動力学を厳密に解ける手法として、特にヨーロッパを中心として国際的に広く認知されてきた。かかる状況下、本年度は座標表示系のコード開発に力をいれ、まず、量子トンネルダイオ―ドのシミュレーションを行った。共鳴トンネルダイオードには負性抵抗領域での複プラトー領域の存在が実験的に示されているが、本研究はこのような問題に対して散逸を含めて初めて厳密に解くことに成功し、複プラトーが異なるトンネル準位かれの遷移に対応して現れることを示した。また、本方程式は古典極限をとれば古典的な挙動も調べられることを利用して、量子ラチェット系について量子力学的な階層方程式と、古典力学的な階層方程式を同じ条件で解くことにより、純粋な量子効果をアイデンティファイしながらラチェットメカニズムについての詳細な議論を行った。化学反応などではトンネル効果は易動度を増す効果があることが知られているが、ラチェット系においてはトンネル効果が強すぎると波束が局在化しなくなり、ポテンシャルによるラチェットの効果が効かなくなり、古典的な場合に比較して、易動度がむしろ減るこをを発見した。この効果は散逸が弱い方が大きく、強くなると古典的な結果に近づくことも発見した。これらの成果は本階層方程式を用いて初めて得られたものである。また、電子移動についても研究を行い、複雑な熱浴のスペクトル分布関数について、電子移動が存在するような系の多次元分光スペクトルを初めて計算した。このほか、量子熱流の研究やイオンをドープした系の多次元分光スペクトルのシミレーションなども研究は進展しつつあり、計算結果が得られて始めている。また電子線回折のシミレーションを行うために、電子状態を含めた分子動力学シミレーションの方法論も開発している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エネルギー離散系に対する階層方程式のプログラミングは、複雑な熱浴のスペクトル分布関数まで含めて多次元スペクトルが計算できるレベルまで一般化されている。本年度は座標と運動量で記述される系にも扱えるWigner空間での階層方程式のプログラミングが完成したことが大きな成果である。1次元系なら計算量負荷もパソコンで扱える程度であり共鳴トンネルダイオードの負性抵抗の研究や量子ラチェット系のシミレーションなども既に完了しており、その実用性はいかんなく発揮されている。相対論的電子線を用いた電子線回折のプロジェクトに関しては、基礎となる方法論に電子状態を含める必要があり、まだ開発段階に留まっている。これについては最終年度に精力的に研究を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
階層方程式の有用性は国際的に広く認知され、用いる研究者も大幅に増加してきた。しかしながら、多くの研究者はエネルギー離散準位系を対象としているだけで、本年度申請者が行ったような座標空間での研究はまだない。計算機が強力になった現在、座標空間であっても1次元系程度なら楽に解ける。しかしなら、多くの実践的な問題は多次元空間で定義されており、計算効率をもっとあげる必要がある。そこで今後はグラフィックス・パワー・ユニットと呼ばれる数値計算に特化したボードを活用することで、計算効率を劇的に向上させたい。離散的なエネルギー準位系に対しても、計算効率を向上させれば、適用範囲も大きく広がり、実用性は大きく増すと期待される。これらのコード開発を行い、その成果をWEB上で公開することで、実験研究者自身で複雑な解析が出来るような環境を用意したいと思っている。
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