2011 Fiscal Year Annual Research Report
線形・非線形分光シミュレーションによる緩和および反応ダイナミクスの解明
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22350013
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
斉藤 真司 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 教授 (70262847)
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Keywords | エネルギー緩和過程 / 三次非線形赤外分光法 / 水 / 過冷却水 / 励起エネルギー移動 / 分子シミュレーション / 励起状態プロトン移動 |
Research Abstract |
非線形分光シミュレーションによる水の分子内・分子間エネルギー緩和機構に関する研究として、エネルギー緩和のための解析手法を開発した。今回開発した手法では、三次非線形分光法のアイディアを利用したもので、従来のように分子内モードの緩和だけでなく、dβphashlgの速いモードや幅の広い分子間モードの解析も可能である。この手法を水の高波数の回転運動を励起させた後の分子間運動領域におけるエネルギー緩和機構の解析に応用した。計算の結果、高波数回転運動から低波数回転運動、並進運動、低波数並進運動へと緩和し、最後に水素結合ネットワークの組み替えが引き起こされることが明らかになった。また、これらの緩和過程の時定数も明らかにした。さらに、過冷却水におけるエネルギー.緩和過程も解析した。室温の液体状態でのエネルギー緩和はカスケード的に起こるが、過冷却水ではいずれの過程も遅延化し、とくに、水素結合ネッドワークの組み替え運動への緩和が非常に遅くなることを明らかにした。エネルギー揺らぎの解析から、この著しい遅延化が分子間運動と水素結合ネットワーク組み替え運動の時間的デカップリングによることも明らかにした。 さらに、溶液内励起状態プロトン移動の解析を行った。電子遷移にともなう励起状態におけるプロトン移動ダイナミックスの解析を行った。励起状態のポテンシャル面の精度を維持し効率よく計算する方法論を10-Hydroxybenzo[h]quinolineに対して適用した。この系に関しては実験研究も行われているが、これまで明らかにされていなかった電子励起後の色素分子の振動コヒーレンス、さらに色素分子の振動から周囲の溶媒分子への緩和ダイナミックス等を明らかにした。また、この研究の発展として、光合成細菌における励起エネルギー移動機構を明らかにするために、バクテリオグロロフィルの励起エネルギーの解析を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題において、分子内・分子間運動におけるエネルギー緩和過程を解析するための周波数分解過渡エネルギー法を開発するとともに、水の分子間エネルギー緩和機構に応用し、その詳細を明らかにできた。また、反応ダイナミクスに関する研究に関しては、基底・励起状態のエネルギー面を作成する方法の適用に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
非線形分光シミュレーションによる水の分子内・分子間エネルギー緩和機構に関して、分子内運動の揺らぎやエネルギー緩和過程の解析をさらに進める。また、反応ダイナミクスに関する研究に関しては、基底・励起状態のエネルギー面を作成する方法の適用に成功したので、これまでの研究の発展として、光合成細菌の励起エネルギー移動の分子論的機構の解明を進める。
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