Research Abstract |
ある種の疾病は,分子論的には,この硝子体の複雑な構造の変化に影響をおよぼしていると考えられ,例えば硝子体の収縮は,後部硝子体剥離,硝子体出血,網膜剥離等を誘発すると考えられる。そこで柔軟なビアルロナンと半屈曲性のコラーゲンネットワークの結合したモードについての方程式を構築すると同時に,豚硝子体を用いて,その相挙動,物性およびダイナミクスをin vitroで検討を行った。ゲルのユニークな物理的性質は,その構造に起因し,2つのbulk coefficient,すなわち弾性定数とゲルネットワークと溶媒の間の摩擦係数によって特徴付けられる。まず力学的測定により,硝子体ゲルネットワークと水の間の摩擦係数を測定することに世界で初めて成功した。さらに,これら実験結果をもとに,動的光散乱により子体ゲルのダイナミクスについて検討を行った。豚硝子体からの散乱光には,比較的速い成分と遅い成分の2成分が観測された。コラーゲン繊維の形成するネットワーク中をピアルロナンが埋めている構造を仮定し,解析的に散乱関数を導出した。この理論は実験結果を良く再現し,生体内で硝子体が膨潤状態にあることを明らかにした。 また,硝子体ゲルは高分子電解質ゲルであるため,その相挙動の塩添加効果について検討を行った。外部溶液中のCaCl_2濃度の増加に伴い,拡散係数(D_<fast>)の減速(スローイングダウン)と散乱強度(I_<total>)の発散が観測され,塩添加による硝子体ゲルの相転移を初めて観測した。疾病により引き起こされる硝子体ゲルの様々な変化の物理化学的原理の追求には,より詳細な分子論的検討が必要ではあるが,本研究は硝子体ゲルの構造および動的性質に対して,新たな光を与えるものと考えられる。
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