Research Abstract |
前年度までに,血液適合性に優れた高分子材料中に観測される水の低温結晶化(昇温過程での結晶化)は,無定型氷から結晶氷への転移ではなく,単分子あるいは2-3量体の水分子が起源であることを明らかにした.これは,生体適合性材料中の特殊な水素結合ネットワーク構造を有する水の存在を否定している.本年度は,生体適合性に劣るとされる数種の高分子材料中の水の温度摂動に伴う状態変化について調査したところ,多くの材料中に低温結晶化水が存在することが判明した.評価した高分子材料のガラス転移温度および構成元素を比較したところ,低温結晶化水の有無は,材料の生体適合性ではなく,高分子鎖の運動性および水分子の補足力に依存:していることが分かった.また,多重反射赤外分光法を用いて,種々の自己組織化単分子膜上に吸着したモデルタンパク質(ウシ血清アルブミン)の構造評価を行い,当該単分子膜上への繊維芽細胞(V79細胞)1の初期接着性との相関について調査した.赤外領域におけるタンパク質の吸収スペクトルは,水のHOH変角振動帯と重なっており,また,吸着タンパク質は絶対量が小さく,通常の分光測定での評価は難しい.そこで本研究では,目的に応じた多重反射赤外分光ユニットを構築し,吸着タンパク質の構造解析を行った.その結果,V79細胞の初期接着量が多い表面では,吸着タンパク質の構造は比較的維持されており,逆に,少ない表面では,強く破壊されていることが判明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初目標としていた吸着タンパク質の構造評価手法を確立し,また,極低含水率から水溶液系までの温度可変赤外分光法を確立している.今後,種々の系について,細胞接着,タンパク質吸着,および水の動態について調査することで,本研究目的を達成可能であると考えている.
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