2012 Fiscal Year Annual Research Report
全身用PET装置のための臭化タリウム半導体センサーの実用化に関する研究
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22360035
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
人見 啓太朗 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 准教授 (60382660)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 高純度化合物半導体結晶 / 帯域精製法 / ガンマ線センサー / 高抵抗半導体結晶 / 高時間分解能 |
Research Abstract |
超高空間分解能を有する陽電子断層撮影(PET)装置を実現するために、化合物半導体臭化タリウム(TlBr)を用いた半導体ガンマ線センサーの開発を行った。平成24年度はセンサーの製作を重点的に行い、センサー製作条件の最適化を行った。 高品質のTlBr結晶を育成するために素材の純化方法の最適化を行った。TlBr素材を帯域精製法により純化する際に雰囲気ガスとして臭化水素(HBr)ガスを使用した。HBrガス発生装置を製作し、結晶の純化及び育成時に石英管内にHBrガスを容易に導入できるようにした。帯域精製を500回繰り返し、帯溶融法を用いてTlBr結晶の育成を行った。 TlBr素材の不純物除去効果を確認するために、ICP-MS法を用いて不純物元素の分析を行った。測定対象はAg、Al、Bi、Ca、Cd、Co、Cr、Cs、Cu、Fe、La、Mg、Mn、Na、Ni、Pbの16元素であった。帯域精製を500回繰り返して育成したTlBr結晶中では、測定を行った元素全ての濃度が定量下限値以下(<1 ppm)であった。このことから、高純度、高品質のTlBr結晶が育成できていることが確認できた。 育成した結晶を切り出し、表面を研磨することによりTlBrウエハーを製作した。TlBrウエハー上に真空蒸着法により直径3 mmのTl電極を形成してガンマ線センサーを製作した。製作した0.5 mm厚のTlBrセンサーは室温において印加電圧400Vの時に漏れ電流値が6.5 nAと非常に低い値を示した。また、この検出器は室温でフッ化バリウムシンチレーション検出器との同時計数測定に於いて6.5 nsの時間分解能を示した。 本年度の研究により、センサーの製作条件の最適化を行い、従来よりも低い漏れ電流、高い時間分解能を示すTlBrガンマ線センサーの開発に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度はTlBrガンマ線センサーの製作条件の最適化を行った。 結晶育成に関してはHBrガス導入系を製作し、結晶育成装置の改善を行い、素材純化、結晶育成を行った。帯域精製を500回繰り返したTlBr素材中の不純物元素濃度はICP-MS法における定量下限値以下(<1 ppm)であり、高純度のTlBr結晶が育成できていることが確認できた。高純度の結晶を得ることがセンサー開発の基礎となるために、高純度結晶の育成方法を確立したことの意義は大きく、研究が順調に進展していることを示している。 センサー製作に関してはTlBr結晶上にTl電極を形成する技術を確立することができた。製作したセンサーは漏れ電流が非常に低く、電極形成が成功していることを示している。このことからも、研究が順調に進展していることが分かる。 陽電子断層撮影装置に用いる半導体センサーには高い時間分解能が求められる。本研究では最終的に5 ns程度の時間分解能の達成を目指している。本年度の研究により製作したTlBrセンサーはフッ化バリウムシンチレーション検出器との同時計測に於いて6.5 nsの時間分解能を示した。この値は現在までに達成していた時間分解能14 nsを大幅に上回る値であり、研究が順調に進展していること強く示唆している。 以上のように本年度までの研究により、高純度、高品質のTlBr結晶の育成に成功し、時間分解能の大幅な改善が図れたことから、本研究課題の当初研究目的は順調に達成されていると結論付けられる。
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Strategy for Future Research Activity |
開発を行っているTlBrセンサーの性能は陽電子断層撮影装置用の検出器として求められる性能をほぼ満たすものとなっている。今後は更なるセンサーの特性改善を行い、センサーの安定性の飛躍的な向上を目指して研究を推進していく。 センサーの特性改善では、引き続き結晶の高純度化、高品質化を目指して研究を行う。結晶の切り出し、研磨方法もさらに改善を行う。結晶表面の化学処理を積極的に行うようにし、センサーの性能と安定性の改善を目指すように研究を推進する。さらに電極形成条件の洗い出しを行い、センサー製作条件を総合的に改善するように研究を行う。 センサーの安定性について詳細な分析を行い、センサーがどの程度の期間連続で動作可能かを見い出す。さらにセンサーの特性の経時変化から安定性劣化に繋がる原因の特定を行う。結晶表面処理、電極形成条件を変化させて、安定性改善に向けた研究を行う。 陽電子断層撮影用のセンサーにとって重要な特性である時間分解能をさらに改善するように研究を推進する。従来のアナログ回路による時間情報取得に加えディジタル処理を用いた時間分解能改善を試みる。ディジタル処理を用いることにより、アナログ回路では実現が困難な波形処理をTlBrセンサーに適用する。また、平行平板型のみならず、ストリップ型、ピクセル型のセンサーを製作し、時間分解能の評価を行う。 センサーの量産技術確立を目指して大型のTlBr結晶の育成を目指す。素材純化、結晶成長に用いる石英管の口径を増加させて結晶育成を試みる。
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