Research Abstract |
本研究の目的は,安全性と経済性を両立させた水素エネルギー社会を構築するため,耐水素疲労炭素鋼が製造できる指針を確立することにある. 昨年度(2010年度),0.05C-0.30Si-1.5Mn(mass%)の炭素鋼,この炭素鋼にVを0.27mass%添加させたV添加炭素鋼を製造した.この二つの炭素鋼に溝ロール圧延を施し、組織(フェライト結晶粒)を細粒化した.これらの炭素鋼に水素をチャージし,疲労き裂進展特性を調べた.相対疲労き裂進展速度(da/dN)H/(da/dN)airは,比較材の炭素鋼では約25倍になった.一方、相対き裂進展速度は,細粒炭素鋼では約5倍となり、V添加細粒炭素鋼では約2倍に留まり,耐水素疲労特性は大幅に改善された.これらの結果から,炭素鋼において,フェライト結晶粒の微細化と微細V炭化物の分散を組み合わせることにより、耐水素疲労炭素鋼を製造できる可能性が明らかになった. 本年度(2011年度)は,MoとV複合添加粗粒炭素鋼の耐水素疲労特性を水素ガス中で調べた.相対き裂進展速度は,0,1MPa水素ガス中では約2倍,1MPa水素ガスでは約4倍であったが,90MPa水素ガスでは約20倍になり,MoとV添加の効果が発揮されなかった.そこで,焼戻しマルテンサイト鋼は,ブロックが1μm以下である天然の細粒鋼であり,かつMoやCr炭化物が分散している鋼であることに注目し,SCM435,SNCM439鋼の焼入れ・焼戻し材の耐水素疲労特性を水素ガス中で調べた.得られた結果はMoとV添加粗粒炭素鋼の結果とほぼ同じになった.これらの結果から,水素ガス中で疲労特性を改善することに対して,Mo,V,Crなどの炭化物は有効であるが,ブロックは有効でないことが明らかになった.来年度は,V添加細粒炭素鋼とブロック境界を強化した低合金鋼の耐水素性を水素ガス中で調べる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度(2010年度)には,V添加細粒炭素鋼の水素チャージ材において優れた耐水素疲労性を達成できた.本年度(2011年度)では,実用性を考慮し,MoとV添加粗粒炭素鋼と焼入れ・焼戻しを施した低合金鋼SCM435,SNCM439の水素ガス中疲労特性を調べた.これらの材料の耐水素疲労性は,1MPaのような低圧水素ガス中では確認できたが,90MPaのような高圧水素ガス中では確認できなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
来年度(2012年度)は本研究の最終年度になる.来年度には,昨年度作成し,水素チャージ材で優れた耐水素疲労性を示したV添加細粒炭素鋼の90MPa高圧水素ガス中での疲労特性を調べ,優れた耐水素疲労性を確認する.この点を裏付けるため,ブロック境界を強化した低合金鋼が90MPa水素ガス中で耐水素疲労性を示すことを確認する.これらをもとに,耐水素疲労炭素鋼のみならず耐水素疲労低合金鋼が製造できる指針を確立する.
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