Research Abstract |
本研究では,固体酸化物形燃料電池(SOFC)に代表される高温電気化学デバイスにおける反応元素の化学ポテンシャル分布・変化を高温,ガス雰囲気制御,通電下において,実験的に明らかにすることを目的とする. 本年度は,化学ポテンシャル分布の実験的直接観察手法としては,前年度までに開発された特殊試料ホルダを使用したX線吸収分光法を主として適用した.SOFC空気極を想定し,酸化物イオン伝導体Ce_<0.9>Gd_<0.1>O_<1.95>上に作製したLa_<1-x>Sr_xCo_<1-y>Fe_yO_<3-δ>(LSCF,x=0.4,y=0,0.8)多孔質電極を測定対象とし,同電極における酸素ポテンシャル分布のその場測定(測定位置分解能:1μm以下)に世界で初めて成功した.その結果,例えば,600℃の多孔質La_<0.6>Sr_<0.4>CoO_<3-δ>電極における有効反応場はおよそ4μmであることを明らかにした.この結論は,交流インピーダンス測定から間接的に導かれる結論と定量的に一致することが分かった. 一方,このようなポテンシャル分布が実デバイスに及ぼす影響について,SOFC空気極の長期安定性を例に検討した.LSCFをモデル材料に,これを高温,酸素分圧勾配下に曝すことにより,同材料の熱力学的・速度論的安定性を調べた.その結果,800℃以上の高温では,酸素ポテンシャル勾配により,LSCFの速度論的分解が生じ,高酸素分圧側でCo,Sr酸化物の析出が起こること,またこの分解は高温ほど顕著であることを明らかにした.さらに,一定の酸素分圧下でも,通電に起因する酸素ポテンシャル勾配により,同様の速度論的分解が生じることを見出した. 以上,高温電気化学デバイスにおける化学ポテンシャル分布の実験的評価に初めて成功し,それが実デバイスの耐久性・信頼性に及ぼす影響を明らかにした点で,本研究の学術・工学的意義は高い.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の主目標としていた「高温電気化学デバイスにおけるポテンシャル分布の実験的評価ならびにその検証」については達成された.また,今年度はX線吸収分光を用いた測定に注力したが,ラマン分光を用いた測定にも対応できるよう,測定セルの改良も行い,次年度の測定に向けた準備も完了した.ただし,成果発表に関しては,成果に対する学術論文等の数は十分とは言えず,これについては最終年度に改善する.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の進捗についてはおおむね順調であり,最終年度もほぼ当初計画に即した形での研究を予定している.今年度までは実デバイスの電解質/電極に即した系において測定を行ってきた.最終年度は,反応部位を特定したパターン電解質/電極を測定対象とし,高温電気化学デバイスにおける反応,イオン輸送現象についての理解をさらに深めることを目指す.また,これまでポテンシャル分布の直接的評価手法としてX線吸収分光法に特化して研究を進めてきたが,最終年度はこれをラマン分光法など,他の測定手法も導入することで,得られるデータの信頼性,再現性を確認する.以上を通して,研究課題である「高温電気化学デバイスにおけるポテンシャル分布のその場計測」を完遂する.
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