2010 Fiscal Year Annual Research Report
水素と格子欠陥の動的相互作用の原子レベルでの新検出法開発と水素脆性克服への展開
Project/Area Number |
22360293
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
高井 健一 上智大学, 理工学部, 教授 (50317509)
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Keywords | 水素 / 水素脆性 / 格子欠陥 / 水素トラップサイト / 高強度鋼 / 転位 / 原子空孔 |
Research Abstract |
従来、鉄中の固溶水素に及ぼす弾性応力の影響として、(1)水素拡散係数は変化なし、(2)水素透過速度は引張で増加、圧縮で減少することが報告されている。後者の理由として、固溶水素の化学ポテンシャル減少が挙げられている。一方、高強度鋼のように各種格子欠陥に弱くトラップされた状態の水素に及ぼす弾性応力の影響については議論が分かれている。本研究では、代表的な高強度鋼である焼戻しマルテンサイト鋼と冷間伸線パーライト鋼を対象とし、一定弾性引張応力下における水素量変化を各種格子欠陥の形成・消滅と関連付けながら検討することを目的とした。その結果、以下の知見が得られた。 (1)弾性応力負荷により水素侵入速度が増加する。 (2)無応力下に比べ、弾性応力負荷により平衡に達した際の水素量が増加する。 (3)0.8σBでは、弾性応力負荷時間とともに格子欠陥量が減少し、後に増加する。負荷初期段階における格子欠陥現象理由は、転位の消滅・再配列に起因し、その後の増加は転位の切りあいによって形成した原子空孔およびそのクラスターに起因すると推察される。 (4)破面形態が擬へき開を示す塑性変形が関与している破壊形態の場合、水素量と負荷応力だけでなく、空孔形成及び蓄積する時間が関係する。 以上のことから、弾性応力下においても水素と格子欠陥(転位)の動的相互作用によって、原子空孔およびそのクラスターが形成促進することが判明した。さらに、弾性応力負荷直後から線形で格子欠陥が増加するのでなく、まずは転位の再配列による減少後、原子空孔およびそのクラスターが増加する過程も見出した。
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