2011 Fiscal Year Annual Research Report
介在物の電気化学特性制御による鉄鋼材料への水素侵入防止技術の開発
Project/Area Number |
22360300
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
武藤 泉 東北大学, 大学院・工学研究科, 准教授 (20400278)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
原 信義 東北大学, 大学院・工学研究科, 教授 (40111257)
赤尾 昇 東北大学, 大学院・工学研究科, 助手 (80222503)
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Keywords | 水素侵入 / 硫化物系介在物 / 水素透過 / マイクロ電気化学セル / 炭素鋼 |
Research Abstract |
平成22年度に開発したマイクロ水素透過セルを用いて、0.05mass%のSを添加した機械構造用炭素鋼(S45C)のMnS介在物の電気化学特性と水素侵入挙動との関係を解析した。試験液としては、ホウ酸と四ホウ酸ナトリウムを混合することで、pH緩衝作用を有するpH5.5と7.0の水溶液を作製した。非脱気の自然浸漬条件において、pH5.5ではMnS介在物に加え鋼素地も活性溶解するが、pH7.0では鋼は溶解せずMnS介在物のみが溶解することが分かった。そこで、マイクロ水素透過セルを用いて、pH5.5の溶液でMnS存在領域と非存在領域を腐食させ、水素透過電流を計測した。その結果、MnS介在物と鋼が共に溶解した場合には水素侵入が起こるが、鋼の溶解のみ(MnS非存在領域)では、水素侵入は起こらないことが分かった。さらに、pH7.0の溶液を使用し、MnSの溶解のみの影響を調査した。その結果、MnS介在物のみを溶解させた際にも水素侵入が起こることが分かった。比較として、MnS非存在領域でも実験を行ったが、鋼の腐食は起こらず水素侵入も起こらなかった。これらのことから、硫化物系介在物が不可避である実用鋼への水素侵入においては、MnS溶解が極めて重要な影響を及ぼしていることが明確になった。そこで、MnS介在物の電気化学的溶解に及ぼす電位の影響を調査した。その結果、炭素鋼の不働態に対応する電位域では、MnSはその表面の一部のみが溶解し、これよりも貴あるいは卑な電位域では、MnS介在物の全面が均一に溶解することが分かった。電位pH図による熱力学的な考察から、貴な領域での溶解ではチオ硫酸イオン、卑な電位域では硫化水素イオンがMnSの溶解生成物として形成されていることが推察された。先の水素透過における自然浸漬条件は卑な電位でのMnS溶解域に対応している。これらのことから、実用鋼においては、MnS介在物が溶解し硫化水素イオンを生じることが実用鋼への水素侵入を引き起こしている主因である可能性が見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、最も困難と考えられたマイクロ水素透過セルの開発が平成23年度末までに予定通りに完了した。そして、開発したマイクロ水素透過セルを用いて、予定していた鋼への水素吸収を助長するイオン種(硫化水素種)の特定を完了したため。
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Strategy for Future Research Activity |
介在物を起点とする水素吸収を防止するため、介在物組成と水素吸収作用との関係を調査する。特に、実用鋼において、MnSの周囲に窒化物などを形成させることの可能性を探索するため、マイクロ水素透過セルを用い、TiN系介在物の腐食挙動と水素吸収作用との関係を解析することを計画している。
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