2011 Fiscal Year Annual Research Report
系統地理学的解析および耳石分析による日本海深海性底魚群集の成立過程に関する研究
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22370032
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小島 茂明 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 教授 (20242175)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大竹 二雄 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (20160525)
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Keywords | 日本海 / 深海 / 底魚 / 系統地理学 / 耳石 / 微量元素 / 最終氷期 / 稚魚生態 |
Research Abstract |
東京大学大気海洋研究所学術研究船「淡青丸」の研究航海を主催し、オホーツク海(網走湾)と北海道沖日本海でビームトロールによる深海性底生魚類の分布調査と採集、CTDによる各深度での水温測定、ニスキン採水器による採水をおこなった。また、東北海区水産研究所および日本海区水産研究所による深海水産資源調査航海に参加し、三陸沖および日本海の深海性底生魚類を収集した。更に漁船に定期的に同乗し、新潟沖でノロゲンゲの生態調査をおこなった。得られたサンプルの解析から、タナカゲンゲがノロゲンゲとは異なり稚仔魚期の鉛直移動は行わないが、成長後に浅所へ頻繁に移動する結果、海域間の遺伝的交流が維持され、遺伝的分化が生じていない事が明らかになった。またマユガジ属の分子系統解析の結果、日本海の深海性底魚で唯一の固有種と考えられてきたアシナガゲンゲが太平洋産のクロホシマユガジと極めて近縁である事が明らかになった。アシナガゲンゲは、日本海に隔離されたクロホシマユガジとの共通祖先が遺伝的に分化し、別種と認識される程度まで形態的分化を遂げたものであると考えられた。異体類のソウハチでは、日本海集団と太平洋集団間の遺伝的差異は見られなかったが、どちらの集団もノロゲンゲの日本海集団と他海域の集団の間に存在する遺伝的差異に匹敵する遺伝的分化を示す2つのグループから構成されていた。この事から、過去に日本海集団が隔離され、遺伝的分化した後、隔離が解消されたと考えられた。一方で、同属種のアカガレイではどちらの海域の集団も遺伝的に近縁な個体のみで構成されていた。こうした種間の遺伝的多様性の違いは、両種の分布水深や行動の違いに起因するものと推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で主要な研究対象としている日本海の深海域で優占する底魚類10種のうち3種について分子系統解析と耳石解析を、2種について分子系統解析を進めている。また他の2種についてはサンプル収集をほぼ終え、解析の準備をおこなっている。また当初、日本海の固有種とされていたため、対象としていなかったアシナガゲンゲからも研究遂行に有益な知見を得る事ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き「淡青丸」の研究航海や他機関の研究航海等で不足するサンプルの確保に努める。ソウハチとアカガレイについて採集地点を増やし、集団構造解析の精度を向上させると共に、耳石の解析により種間の卵や稚仔魚期の分布水深を比較し、構造の差を生みだした機構を解明する。更に他の異体類についても解析をおこなう。アシナガゲンゲとクロホシマユカジのサンプルを更に集め、集団レベルの解析と耳石の解析をおこなう。残る種についても同様の解析をおこない、日本海の深海底魚群集を構成する主要種の解析結果を総合し、成長段階による鉛直移動の有無が環境変動による集団の衰退とその後の回復過程に強く影響するという仮説を検証する。
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Research Products
(4 results)