2011 Fiscal Year Annual Research Report
植物におけるもう一つの酸性環境適応戦略:微生物共生ネットワークの分子基盤
Project/Area Number |
22380042
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
江澤 辰広 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40273213)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青野 俊裕 東京大学, 生物生産工学研究センター, 助教 (10372418)
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Keywords | アーバスキュラー菌根菌 / 共生 / 菌類ウィルス / 植物 / 耐酸性 / リン酸 / dsRNA |
Research Abstract |
1. 耐酸性菌根菌が植物の耐酸性獲得において果たす役割 先駆植物であるススキに酸性土壌および非酸性土壌から分離された菌根菌を接種し、強酸性(pH 3.2)および弱酸性(pH 5.4)の土壌において栽培したところ、pH 5.4では菌根菌の接種の有無や菌根菌の種類に関わり無くススキは正常に生長したのに対し、pH 3.2では酸性土壌由来の菌根菌を接種した場合のみ正常に生長した。このとき、菌根形成により、宿主の根が受ける酸性障害は緩和されなかった。これらのことは、耐酸性菌根菌は、根に代わる養水分獲得経路の提供を通じて、宿主植物自身の適応能力を超えた耐酸性を付与できることを意味している(江沢・河原, 2012)。 2. 菌根菌の耐酸性に関与する遺伝子の探索 菌糸において発現している遺伝子(mRNA)の網羅的解析(H21年度科研費により実施)により得られた情報の中から、菌根菌の耐酸性に関与すると推定される遺伝子の探索を行い、耐酸性(アルミニウム耐性)に関与すると予想される多数の候補遺伝子を抽出した。 3. 菌根菌が保持するウィルスと耐酸性との関係 本研究室で維持している4菌株において二重らせんRNA(dsRNA)ウィルスの探索を行ったところ、すべての株がdsRNAを保持していることがわかった。そのうち、特に存在量の多いdsRNAのゲノム構造を決定すると共に、このウィルスの脱落した(ウィルスフリー)株の特性解析を行ったところ、ウィルスフリー株は保持株に比べて胞子形成能が2倍に増加することに加え、強酸性土壌におけるススキの生長をウィルス保持株に比べて有意に増進させることがわかった(Ikeda et al., 2012)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
植物耐酸性において菌根菌が果たす役割や菌根菌ウィルスに関するプロジェクトでは想定以上の進展がみられ、当該年度内の論文発表を達成したが、菌根菌の耐酸性遺伝子に関する研究では、酸性感受性菌株の生長が遅く、接種源の再準備を行ったため、耐酸性スクリーニング実験系の構築に手間取っている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、mRNAの網羅的解析(トランスクリプトーム)やウィルスのコア配列に関して、次世代シーケンサーを用いて多くの情報を得ているため、今後は、これらの情報を使って最重要課題であるi) 耐酸性菌根菌による植物耐酸性の獲得機構とii) 菌根菌からの養水分供給機構に関する分子基盤を明らかにすることに集中する。iii)菌根菌の耐酸性遺伝子獲得に関しては、まず、分子解析が可能な(非土耕)耐酸性スクリーニングの実験系を確立すること、iv) ウィルス探索に関しては、既にコア配列情報が得られている菌株に絞って解析を行うこととする。
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