2012 Fiscal Year Annual Research Report
マメ科植物との共生窒素固定の成立に必要な根粒菌の細胞機能
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22380048
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
三井 久幸 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (40261466)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 共生 / 根粒菌 / 窒素固定 / シグマ因子 / 鉄イオウタンパク質 / 変異株 |
Research Abstract |
根粒菌のマメ科植物との共生窒素固定系の成立を支える遺伝的基盤には依然不明な点が多い。本研究では、細菌細胞の基本体制に対して、根粒菌独自に付加されたであろう共生特異的な役割を探るという方針の下、根粒菌のcep、ctrA、rpoH各変異株、および条件致死と共生窒素固定能欠損(Fix-)の両表現型を有する未同定変異株の解析を実施した。 S. melilotiのRpoH1レギュロンの構成遺伝子群の変異解析により、機能未知の新規共生必須遺伝子SMc00302を見出した。これは、ゲノム上でFe-S cluster形成マシナリーをコードするsuf遺伝子オペロンの中途に位置する。その遺伝子破壊にあたり、極性効果による下流遺伝子の発現に対する影響を最小限とするため、マーカー遺伝子を用いない小欠失による破壊を実施した。得られた変異株を用いて、アルファルファへの接種試験、各種生育試験を実施した。その結果、rpoH1変異株と同様の共生窒素固定能欠損・温度感受性・酸感受性を示すと同時に、rpoH1変異株には見られないような最小培地での生育阻害(栄養要求性)およびFeキレーター感受性が確認された。RACE解析により、SMc00302はヒートショックに伴ってRpoH1プロモーターコンセンサスを上流に有する開始点から転写誘導が起こることを見出したが、ヒートショックのない条件下でも一定の発現を維持していることが、rpoH1変異株とSMc00302変異株の表現型の違いの理由と思われる。SMc003021遺伝子は、原核生物・真核生物を問わず広く保存されているSufマシナリーに関連して、Fe-Sタンパク質(この場合は共生窒素固定、ストレス耐性、および細胞生育因子合成等に必須なタンパク質群)の生合成に特異的に機能していると考察されるので、この遺伝子産物の分子機能および細胞機能の解明は、今後の中心的研究課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の重点の一つは、他の細菌ではストレス応答の制御因子としての役割が確立しているシグマ因子RpoHが、根粒菌では共生窒素固定能において必須かつ特異的な役割を果たしている事実を更に追求することにある。すなわち、RpoH1レギュロンには、従来想定されていなかったような新規な共生窒素固定必須遺伝子が含まれていると期待していた。本研究では、そのような遺伝子としてSMc00302を同定するのに成功した。しかも、この遺伝子のホモログは、いずれも機能不明ながら他細菌、酵母など生物界全体に広く保存されており、今後の展開は、根粒菌の共生能解明に加え、より一般化し得る現象の解明につながることが期待され、この点で本研究課題は順調に進展していると自己評価した。 その他の遺伝子の解析について、M. lotiのcep遺伝子の変異株が示す根粒形成能欠損のサプレッサー変異の同定実験も進み、機能未知の二成分制御系をコードする遺伝子にたどり着いており、この解析についても順調な進展と評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題で今後重点を置く目標の一つは、SMc00302遺伝子産物の機能解明である。そのために、in vivo、in vitro両面での実験を進めてゆく。in vivo実験としては、SMc00302遺伝子の変異株が示す共生不全または栄養要求性のサプレッサー分離によるSMc00302と機能上の関連性を有する他遺伝子の同定、SMc00302がその生合成に重要な役割を有するようなタンパク質の網羅的探索、免疫沈降法などによるSMc00302タンパク質と相互作用する他遺伝子産物の探索を並行して開始する。その結果に基づき、次に、細胞内のターゲットFe-Sタンパク質の成熟化(アポタンパク質へのFe-S clusterの挿入)や、そのようなタンパク質の酵素活性の測定等を実施する。同時に、SMc00302、Sufマシナリー、ターゲットFe-Sタンパク質(のアポタンパク質)をE. coliの系を用いて嫌気条件下で各々発現・精製し、in vitroでのFe-Sタンパク質成熟化の再構成を試みる。今後2年間で以上の実験を完了することにより、当初の目的であった、シグマ因子RpoH1から、その発現制御の重要なターゲットの一つであるSMc00302遺伝子、更にその機能上のターゲットであるFe-Sタンパク質の同定に至るまでの流れの同定と完全証明を目指す。 M. lotiのcep遺伝子の機能解明については、関連する機能を有する二成分制御系について、その制御下にある遺伝子群の同定をRNA seq等の実験手法を用いて進め、最終的に、根粒菌細胞と植物細胞との初期相互作用に重要な細胞表層因子の解明への道筋をつけることを目指す。
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Research Products
(3 results)