2011 Fiscal Year Annual Research Report
ミズナラのフェノロジーに関連づけた適応的遺伝子の網羅的探索
Project/Area Number |
22380086
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
原田 光 愛媛大学, 農学部, 教授 (40150396)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小池 孝良 北海道大学, 大学院・農学研究院, 教授 (10270919)
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Keywords | ミズナラ / フィトクローム遺伝子 / フェノロジー / 自然選択 / 適応的遺伝子 / 産地試験 / 窒素沈着 / 被食防御 |
Research Abstract |
ミズナラ(Quercus mongolica var. crispula)は日本の冷温帯を代表する樹種であるが、これまでの研究から、東北日本の集団と南西日本の集団は気候に対する異なる適応過程を経てきたことが示唆された。このことから北方集団と南方集団ではフェノロジー、特に光環境の変動に対して異なる応答を示すことが予想できる。これを指標にして環境変動への適応過程に関与する遺伝子のスクリーニングを試みる。すでに日本の各地で採集したミズナラ種子を北海道大学札幌研究林圃場および愛媛大学農学部苗畑に育成しているので、これについてのフェノロジーを観察すると共に、いくつかの遺伝子をクローニングし、分子集団遺伝学的解析を行って自然選択の有無を調べる。本年度は以下のような結果が得られた。 (1)フィトクーム遺伝子の分子集団遺伝学的解析:ミズナラについて、すでに三つの遺伝子、PHYA,PHYB/D,PHYEがあることがこれまでに明らかにされている。日本の南北それぞれから8集団を選び、各集団8個体についてそれぞれの遺伝子1000bp前後の配列を決定した。集団全体の塩基多様度(π)は3遺伝子それぞれで、0.00178,0.00135,0.00199となり南北では有意な差が見られなかった。また同義、非同義サイトに分けて中立性の検定を行ったが自然選択は検出できなかった。 (2)ミズナラのcDNAライブラリー作成およびESTマーカー作成:南北集団のミズナラの冬芽からRNAを抽出し、cDNAライブラリーの作成を試みた。 (3)フェノロジーの観察測定:ミズナラの葉のフェノロジーを主軸の成長の実測と写真を用いて追跡した。この結果、南の産地の開葉が遅れる傾向が4年連続で確認できた。さらにミズナラと共存するブナの被食防衛の追跡を継続するとともに、増加してきた窒素沈着と窒素酸化物由来のオゾンの影響を確認した。高窒素下ではミズナラは秋伸びを起こしやすかった。一方、夏からのオゾンの影響はブナの気孔閉鎖能力を劣化したが、ミズナラには明瞭な影響が見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィトクーム遺伝子についての分子集団遺伝学的解析については、自然選択は検出できなかったものの、多くのデータが得られSNPsレベルで更に詳しく解析することにより、自然選択の働いているサイトが検出できる可能性がある。北大札幌研究林苗畑で行っているフェノロジー観察については継続調査を実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
cDNAライブラリー作成のためのRNAが質、量共に十分でなく、これまでに作成したものは網羅的に遺伝子転写産物を含んでいるとは言い難い。今年度は葉のサンプル採集に細心の注意を払うとともに、抽出法、ライブラリー作成法を再検討し、質の高いライブラリーを作成する。このcDNAライブラリーをもとにESTマーカーを作成し、遺伝子スクリーニングに供する。フェノロジー観察については愛媛大学演習林圃場に育成したものが一昨年イノシシの被害にあい全壊した。現在平地苗畑で新しい種子を育成中であるが、今後北大研究林の育苗中のものを中心にフェノロジー観察測定を行う。これについては開葉に影響する被食防衛物質が光合成産物によって左右されるため、個体の劣化にも影響するオゾン濃度の上昇の影響も合わせて評価する必要が生じた。これについての測定を実施する予定である。
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Research Products
(3 results)