2012 Fiscal Year Annual Research Report
左ヒラメに右カレイの謎と健苗育成に向けた稚魚発生システムの解明
Project/Area Number |
22380104
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鈴木 徹 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70344330)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宇治 督 独立行政法人水産総合研究センター, 増養殖研究所, 研究員 (40372049)
横井 勇人 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40569729)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 異体類 / 変態 / 増養殖 / 発生 / 左右非対称性 / 色素形成 / 脊椎骨 / 形態異常 |
Research Abstract |
ヒラメ体色形成に関するこれまでの研究により、成魚型色素胞前駆細胞の体幹正中部から皮膚への移動は左右に起こり、前駆細胞から色素胞への分化が有眼側のみで起こるために体色の左右差が生じることが示唆されている。今回は、体色の左右差形成の分子制御機構について手掛かりを得るために、メダカで背腹の体色パターンを制御することが知られているzic1(double anal fin)のヒラメ仔魚での発現を解析した。H期仔魚において、有眼側皮膚組織(表皮および真皮、近傍の結合組織)でzic1の発現が観察された。また同時期に、無眼側皮膚の表皮がアセチル化チューブリン抗体に陽性となることが観察された。このような左右差は両者ともにG期には検出されず、I期には一部個体のみで検出された。今回の結果は、変態期の皮膚組織で分子レベルの左右差を検出した初めての例であり、異体類体色の左右形成機構の解明への手掛かりとなるものと期待される。 養殖魚ではしばしば脊椎骨奇形が問題となり、これまでの研究により幾つかの原因が特定されているが、その機序には不明な点が多い。この点を理解する手掛かりを得るために、レチノイン酸(RA: 活性型ビタミンA)で脊椎骨異常を実験的に誘導し、骨奇形の進行過程を組織学的に解析した。RA処理個体では、一つの椎体前駆組織から複数の神経弓と血管弓が伸びる異常が観察され、RA処理によりリガメント組織(椎間板様組織が形成される部分の外周をリング状に囲む)が変性して複数の椎体前駆組織が一つの構造となっていると考えられた。これらの結果から、RA処理によりリガメント組織が変性し、それに伴い骨化の過程で脊索から形成される椎間板様組織が消失し、複数の椎体が融合することにより、脊椎骨融合が生じることが推定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
異体類(ヒラメ・カレイ類)変態の特徴は、片側眼球の移動と有眼側での色素形成から始まる体全体の左右非対称性形成と、非対称性が左ヒラメと右カレイに分かれる点である。水産増養殖の種苗生産では、眼や体色の非対称性異常魚が多発しその原因究明と防御策の開発が望まれている。本研究では、異体類に固有な眼の非対称性がどのように誕生したのかと言う問題にせまることを目的とする。さらに眼位異常や色素形成異常など、左右性異常の原因究明と防御技術の開発を目的とする。 ノダル経路は脊椎動物共通に胚期に間脳、心臓および腸原基の左側に発現して脳と内臓の非対称性を一定方向に制御することが知られている。異体類では、ノダル経路の間脳の発現が変態期まで維持され、それにより眼位が一定に制御されることを明らかにした。変態期にヒラメでは右眼が、カレイ類では左眼が移動するが、これは視神経交叉の左右性(ヒラメでは右眼由来の視神経束が左眼由来の背側を通り、カレイ類では左眼由来が右眼由来の背側を通る)によって決まることを明らかにし、左ヒラメと右カレイの謎をほぼ完全に解明した。 一方、体色の左右性については、メダカで背腹の体色パターンを制御することが知られているzic1(double anal fin)に着目して解析を行った。メダカでは、終生、zic1遺伝子が背側半身に発現して体色や骨格の背腹の違いをもたらしているが、ヒラメでは胚期に背側で発現していたzic1遺伝子が変態期に有眼側で発現するように、切り替えが起こることを発見した。この発見は、体色の左右差解明に向けて大きな進展と言える。 長日飼育による有眼側白化にはドーパミン神経の異常による下垂体の内分泌異常が関与していること、レチノイン酸による脊椎骨異常の誘起メカニズムを解明するなど、養殖種苗の形態異常と関連した異常発生のメカニズムについても多くの成果をあげることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたるので、zic1遺伝子に着目して体色の非対称性形成のメカニズム解明にせまることを最大の目的とする。まず無眼側へのzic1遺伝子の強制発現実験を行い、無眼側に着色が起こるかを検討する。またzic1遺伝子を有眼側に発現誘導するシグナルシステムについて検討する。 照明条件と体色異常、種苗の生残率との関係について、時計遺伝子に着目して解明する。一昨年度、ヒラメを使って、時計遺伝子period2の発現パターン(昼ON:夜OFF)から、視交叉上核が中枢時計の役割を果たしていることを、魚類で初めて明らかにすることができた。体外発生する魚類を使えば、時計遺伝子の個体発生、および光条件や試薬類が時計遺伝子発生に及ぼす影響を解析することができる。来年度、ヒラメ仔魚を使って、時計遺伝子の個体発生を解析し、光条件や各種試薬類が時計遺伝子発生に及ぼす影響を解析する。種苗生産では、初期仔魚を全日照明で飼育すると斃死が起こることが知られているが、本研究により全日照明で起こる日周リズムの乱れを解明し、仔魚の適切な照明管理について知見が得られるものと考えている。
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