2011 Fiscal Year Annual Research Report
不可逆的組織破壊疾患の解明と多能性幹細胞による再生
Project/Area Number |
22390144
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
磯部 健一 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20151441)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
室 慶直 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80270990)
柴田 玲 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70343689)
|
Keywords | 免疫疾患 / 再生 / 老化 / iPS |
Research Abstract |
生体に様々な刺激が加わると生体は免疫系が反応し、好中球、マクロファージといった自然免疫細胞が傷害物を除去するとともに、自己組織は破壊される。その後、マクロファージが組織再生物質を放出して、繊維芽細胞からコラーゲン等を分泌させ、組織の収縮がおこり、組織成長因子の産生から再生がスタートする。ところが、感染、傷害といった刺激が繰り返し加わると、この過程が再び繰り返され、やがて再生ができずに、組織にコラーゲン等の基質が蓄積し、臓器不全の状態に移行すると考えられる。我々はブレオマイシン強皮症モデル、DSS 潰瘍性大腸炎モデルでこれらのメカニズムを解明している。本年度は活性酸素を発生させる強い刺激の損傷モデルで、DSSモデルと同様に早期に 好中球が動員され、その前駆細胞が骨髄、脾臓に増加し、その細胞の移入で創傷治癒が促進することを見いだした。この創傷治癒に我々がこれまで解析したGADD34が関与することが明らかになり、そのマウスの解析をしていたところ、GADD34遺伝子欠損マウスでは老化に伴いミエロ系前駆細胞の割合が増加することが明らかになった。このことから、GADD34遺伝子欠損マウスでは早期の創傷治癒過程を促進する。ところが、GADD34 遺伝子欠損マウスの創傷の後期課程は未だ明らかになっていない。このため、GADD34遺伝子欠損マウスの損傷後期課程、すなわち、マクロファージから産生される因子による損傷部位の繊維芽細胞の増殖やコラーゲン産生へのシグナル経路を検索した。すると、GADD34遺伝子欠損マウスでは繊維芽細胞がより早く増殖し、コラーゲン産生が盛んになることが判明し、その解析を次年度以降行うことにした。臓器不全になった組織を自己再生させるため、我々は自己のiPS細胞の利用を考え、各年齢のiPS細胞作成に成功し、マクロファージ、血管、神経に分化させることに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
組織損傷から自己再生のメカニズムの解析は多くの疾患、特に老化関連疾患(動脈硬化、肝硬変、腎不全、閉塞性呼吸器障害、アルツハイマー等)に重要であり、高齢化社会を迎えその解析が急がれている。私たちは、その解析を分子レベル、細胞レベルのみならず、マウスを使用した個体レベルで行ってきた。損傷初期に好中球が重要な役割を果たすことを、マウスへの細胞導入実験で明らかにできた。また、再生への転換にM2マクロファージからTGF-Bが産生され、それが、繊維芽細胞のレセプターを介して、SMAD2/3からコラーゲン産生が起こり、その過程に私たちが解析しているGADD34遺伝子欠損マウスが関与していることを明らかにできた。このことは当初の研究目的を達成するために、大きな一歩であると考える。一方、臓器不全に陥った組織の修復に今の所、移植以外本質的治療法がない。私たちは、高齢者では自己細胞を利用して、再生することが最も好ましいと考えている。そのため、すでに老化マウスからiPS細胞を作成することに成功しているが、さらに、様々な年齢のマウスからiPS細胞を作成することに成功した。これらのiPS細胞が組織細胞に分化可能か否かが大きな問題である。私たちは、少なくとも老化マウスからつくったiPS細胞が血管内皮細胞、神経細胞、マクロファージに分化可能であることを見いだした。このことは将来の臓器不全に対する自己細胞治療への大きな一歩と考えられる。また、iPS細胞と同系マウスで、DSS腸炎モデル、皮膚損傷モデルに加えて、血管結紮による血流不全モデル、糖尿病性神経細胞傷害モデル作成に成功し、移植実験をスタートさせている。このことから研究は順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
私たちは、損傷からその回復のメカニズム、繰り返し刺激から再生不能となった臓器の再生に自己iPS 細胞が有力であることから、C57BL/6マウスをモデルに研究を展開してきた。すなわち、様々な年齢(老化マウスを含む)のC57BL/6マウスからiPS細胞を作成し、この細胞を組織細胞に分化させ、同系マウスに移植する実験を遂行してきた。これまで、老化マウスを含むiPS細胞からマクロファージ、血管、神経細胞の分化に成功し、同系マウスへの移植実験の段階にさしかかった。ところが、今年度Nature紙にiPS細胞は同系マウスへの移植で拒絶されることが発表され、iPS細胞を使った自己細胞療法への疑問符が提示された。私たちは、この問題は緊急性を要すると考え、C57BL/6で作成したiPS細胞を同系マウスに移植する実験、分化させたiPS細胞を同系マウスに移植する実験をスタートさせた。これまでのところ、iPS細胞そのものは拒絶されないことを見いだしており、老化iPS細胞が同系マウスに拒絶されるか、また、マクロファージ、血管、神経に分化させたiPS細胞も拒絶されないか否かといった将来の再生医療の根本問題の1つに挑戦する。また、創傷治癒モデル実験、DSS腸炎モデル実験で組織損傷と再生メカニズムを解析してきた。組織損傷の後期の過程でGADD34が関与することが明らかになってきたため、マウスの損傷モデルでそのメカニズムとシグナル伝達系への関与を詳細に検討する。GAD34は様々な刺激で発現が上昇する蛋白であり、また、PP1といった脱リン酸化酵素と結合して作用することからこの蛋白の関与が明らかになれば、その阻害薬、活性化薬の検索を通して薬剤開発に直結するものと思われる。
|