2011 Fiscal Year Annual Research Report
神経変性疾患における興奮性神経細胞死の病因的意義の検討
Project/Area Number |
22390173
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
郭 伸 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (40160981)
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Keywords | 神経変性疾患 / 封入体 / カルシウム / AMPA受容体 / TDP-43 / 神経細胞死 |
Research Abstract |
超高齢マウス(100週超齢)では、グルタミン酸受容体のサブタイプであるAMPA受容体に加齢性変化が起こることが明らかになった。すなわち、加齢に伴い、AMPA受容体サブユニットであるGluA2 に本来起こるべきグルタミン・アルギニン(Q/R)部位のRNA編集が充分には行われず、この部位が未編集のままの、正常では発現しないGluA2が発現することが明らかになった。そのメカニズムは、RNA編集酵素adenosine deaminase acting on RNA 2 (ADAR2)の加齢に伴う発現低下であり、その程度は神経細胞種により異なり、脊髄では前角外側に位置するFast-fatigable motor neuron (FF運動ニューロン)で最も著しいことが判明した。ADAR2 の低下はFF運動ニューロン以外にも見られるものの、その程度は発現するGluA2全てのQ/R 部位をRNA編集できるレベルに保たれており、野生型超高齢マウスでは、未編集型GluA2を発現するニューロンはFF運動ニューロンに限られていた。前角運動ニューロン数を反映する前根軸索数を算定すると、1歳齢以降、75週、100週と週齢を重ねるにつれ、軸索数が減少することが分かった。未編集型GluA2を発現する運動ニューロンは、その多寡にかかわらず神経細胞死に陥るので、変性脱落に陥った軸索はFF運動ニューロンに由来するものが大多数を占めると考えられる。従って、高齢マウスにタモキシフェン誘導性のADAR2 ノックアウトを行うことにより、週齢の若いマウスに行うのに比べて細胞死が起こりやすくなるのではないかと予想された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
加齢に伴うRNA編集活性の低下がAMPA受容体の特性を変化させ、封入体構成蛋白のプロセシング異常や細胞死を促進する因子となり得ることが明らかになったことは、疫学的に知られていた神経変性疾患が加齢に伴い発症率の増加、進行速度の加速化を来すことに分子基盤を与える新しい知見である。また、ALSに特異的にみられる封入体形成メカニズムを解明することが、他の神経変性疾患における封入体形成メカニズムを理解する上に大いに役立ち、同様の分子メカニズムの解析を進めることで、病因解明に近づくことができると考えられる。これらは予想しなかった新たな知見であり、神経変性疾患の病因の理解を進める上に、大きな成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
加齢に伴うAMPA受容体プロセシングの変化が変性疾患特有の神経封入体形成および細胞死に繋がることが明らかになったので、加齢に伴う細胞内カルシウムシグナリング変化を検討し、神経変性疾患の発症機序におけるAMPA受容体からのカルシウム流入増加の意味、又カルシウム濃度の制御機構の加齢性変化に伴う細胞毒性のカスケードの検討を行う予定である。また、加齢によりチャネル特性が変化したAMPA受容体の発現が、神経変性に及ぼす影響を神経細胞の脆弱性の変化、細胞内封入体形成への影響から検討する。
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