Research Abstract |
アンコール遺跡では,古いもので建築後1000年以上が経過し,自然劣化が顕著である。そこで1)アンコール・ワット回廊部の砂岩柱を対象に,風化量と原位置物性値を測定した。また2)柱の風化には,気象環境が強く係わっていると推測されるため,遺跡内に気象ステーション(2010年12月22日)やデータロガー(10箇所,2011年8月22日)を設置し,気象観測を継続した。一方,3)供試体7種(砂岩,ラテライトほか),14個を遺跡内に暴露(2011年8月24日)させるとともに,ディスク状供試体(砂岩・ラテライト)を地中に埋設(2012年3月18日)して,風化量・物性値の変化を定期的に測定した。平行して,4)室内では現地の温・湿度変化をプログラムした環境試験機を用い,7岩種を用いた風化加速実験を開始(2011年12月26日)した。さらに,5)植生による遺跡の破壊が顕著なタ・プロム寺院とベン・メリア寺院を対象に,樹木のマッピングと樹木が遺跡の破壊に与える影響を分析した。これらのうち,3)4)は経過時間が少なく,顕著な結果は得られていない。一方,1)について,第一回廊内柱の日陰面は,日向面に比べて強度が低く,含水比が高いことがわかった。これに対して日向面は,乾燥して強度も高いが,最大約67mmの風化凹みが認められた。このような差異は,柱の微気象環境によると考えられ,日陰面では強度低下による風化の進行が懸念される。また2)の気象データ(2011年1~12月)の解析から,現地の気温は36.1℃~15.3℃と年較差が大きく,年間降水日数139日で,降水量2,065mmであることがわかった。さらに5)では,タ・プロムで140本,ベン・メリアで約635本の樹木を確認し,とくにタ・プロムでは平均樹高30mに達するTetrameles nudifloraが優勢し,遺跡の破壊に影響していることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アンコール・ワットにおける気象ステーションの設置許可までに,時間を要したが,設置後は,屋外(気象ステーション圃場内)における風化実験や回廊部の風化量・物性値測定は順調に進んでいると考えられる。また,連携研究者と分担的に研究を進めていることも,研究がおおむね順調に進展している主な理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究データが少しずつ蓄積されてきた。そこでいくつかの課題を設定して,中間的な報告を取りまとめたいと考えている。なお,現時点では,屋外および屋内における岩石供試体の風化結果が十分得られていない。とくに屋外における風化実験では,岩石供試体の風化が遅く進んでいるためと考えられる。しかし,本実験の性格上,風化速度を人為的に加速させることは困難である。一方,室内の風化実験では,途中の物性計測を簡略化して環境変化の反復数を増やし,十分な結果が得られるようにする予定である。
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