2012 Fiscal Year Annual Research Report
カンボジア・アンコール遺跡における石材の風化量の定量化とその寿命に関する研究
Project/Area Number |
22401005
|
Section | 海外学術 |
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
藁谷 哲也 日本大学, 文理学部, 教授 (30201271)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 地形学 / 世界遺産 / 岩石風化 / 建築石材 / アンコール遺跡 / 劣化 / 気象観測ステーション |
Research Abstract |
アンコール遺跡を構成する石材の風化環境を捉えるため,2010年12月にアンコール・ワットに気象観測ステーション(AMOS)を設置し,観測を継続してきた。AMOSにおける気象データの代表性を検討するため,シェムリアップ空港の気候値と2011年の観測結果を比較した。その結果,AMOSでは気温の年較差が10℃程度と空港より約5℃低く,年間降水量は約500mmも多い。これは,AMOSのデータが樹林地を伴うアンコール・ワットの気象環境を正確に反映しているものと推察された。一方,境内における気温移動観測結果によると,建築物周囲の気温は,樹林地からなる建築物周辺より1℃程度高い。これは,砂岩で覆われた建築物で高温・乾燥化が生じており,遺跡がシビアな風化環境に曝されていることを示す。 遺跡を構成する岩石(砂岩・ラテライト)をはじめとする,7種類の岩石の現地暴露実験は,2011年8月に開始し 8月(雨季)と3月(乾季)に風化状況の反復計測を実施している。その結果,2012年3~8月にかけて,超音波伝播速度は砂岩で平均-11.5%,ラテライトで平均-8.8%,帯磁率は砂岩で平均-3.0%,ラテライトで平均-5.9%の変化が見られ,風化の兆候が確認された。一方,室内における風化加速試験では,砂岩・ラテライトともに大きい物性変化は生じていない。 遺跡を構成する砂岩の風化量や物性の原位置測定は,アンコール・ワットで集中的に実施した。その結果,柱の凹み深さは回廊の向きによって異なり,回廊の東側で深く,北側で浅いことがわかった。また,温湿度および柱の水分変化の測定の結果,柱の凹みの形成は,湿度変化の大きさと頻度および水分変化の大きさが関わることが推察された。また,凹みの形成には,乾湿風化や雨水と砂岩との反応による塩類(石膏,カルサイト,リン酸塩鉱物など)の析出がかかわっていることが推察された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
AMOSによる気象観測や遺跡を構成する砂岩の風化量および原位置物性の測定は順調に進展し,一定の成果を得つつある。しかし,現地暴露実験や室内での風化加速試験では,石材の風化が予想以上に遅く期待した結果を得られていない。これは利用石材が新鮮な岩石から切り出し作成したものであることが主原因であると考えている。一方,遺跡を覆う植生の成長量をモニタリングしていたが,測定に用いる標尺がいたずらもしくは盗難にあうなどして測定結果を得ることができなかった。また,アンコールワット回廊内に設置したデータロガー2基についても,同様に紛失した。これら機器等の紛失については,遺跡の管理機構に巡回などの対策を依頼した。
|
Strategy for Future Research Activity |
砂岩の風化量や物性の原位置測定結果などがそろってきたことから,平成25年度は遺跡の建築年代と石材の物性を考慮した風化量の定量化を目指す。一方,遺跡を覆っていた植生の伐採が石材の風化に大きい影響を与えていることが推測されてきた。このため,植生被覆環境の異なる遺跡で風化環境を調べたいと考えている。この遺跡の風化環境に関する分析では,とくにアンコールワットに設置したデータロガーのデータ回収・分析を継続しながら,AMOSのデータと合わせて寺院周辺の温・湿度環境を分析し,石材のみで構成される遺跡部分の高温・乾燥化の影響について分析する。 一方,石材の原位置暴露試験と風化加速試験の進捗状況は,昨年度と同様に芳しくない。すなわち,現地暴露試験の試験片では,地衣類等の着生は認められるものの物性値に大きい変化は生じていない。また,風化加速試験でも,暴露試験と同様に大きい物性値の変化は認められない。そこで,これら試験は継続するものの,共焦点レーザー顕微鏡を用いた岩石表面のラフネス値(粗度)を計測するなどして,微細な風化状態の分析をおこなう方針である。 なお,遺跡建築以降の環境変遷を知るため,遺跡周辺で簡易ボーリングを行って,とくに気候環境の変化を明らかにしたいと考えている。
|
Research Products
(6 results)