2012 Fiscal Year Annual Research Report
格差社会における紛争後の平和構築の実態と課題:ペルーの真実委員会と先住民
Project/Area Number |
22401043
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
細谷 広美 成蹊大学, 文学部, 教授 (80288688)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 平和構築 / 紛争 / 先住民 / ペルー / 人権 / ラテンアメリカ / 国際情報交換 / 不平等 |
Research Abstract |
紛争後の平和構築については、これまで主にマクロレベルから研究されてきているが、一方で一旦平和構築がおこなわれた社会で再度紛争がおこることが、新たな課題となっている。このため本研究は、対面状況下でのミクロレベルの調査を主たる方法論とする文化人類学の手法を用いて、格差が存在する社会の平和構築の実態と課題について具体的な事例をもとに明らかにする。なかでも近年国際社会において紛争後の平和構築の一環として、移行期正義と関連して設置される例が増えている真実委員会(真実和解委員会は真実委員会として総称される)に焦点をあてている。 本研究で事例として扱うペルーは、人種主義が根強く不平等が存在しており、紛争の被害も先住民に集中した。本年度は所属する大学で海外長期研修を取得することができたので、前半の4カ月間はペルーに滞在し、先住民と平和構築の関係について調査研究を実施した。新自由主義政策をとったペルーは、急速な経済成長を遂げている。その一方で、格差が拡大し、かつての紛争地域で麻薬業者とテロ組織が結託した紛争が拡大している。2013年はペルー真実和解委員会の最終報告書提出から10周年を迎えるが、継続的調査、裁判、秘密墓地の発掘調査、補償プログラムのどれもが進展していないことが調査から明らかになった。この背景には制度化の失敗や政治的要因がある。 あわせてペルーの国内避難民の地域で継続してフィールドワークを実施してきている。ペルーの国内避難民に関する本格的調査は国際的にみてはじめての試みであり、データとして重要である。 後半の8カ月間は、ハーバード大学ロースクール人権プログラムの客員研究員となり、冷戦後の国際社会の平和への取組、動向について、国際人権法、移行期正義に焦点をあて理論的研究をするとともに、国際刑事裁判所や米州人権裁判所と地域紛争の関係について研究をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は所属する大学の海外長期研修制度を利用して、1年間海外で調査研究を実施することができたため、当初の研究計画を大幅に進展させることができた。前半4カ月はペルーで調査研究を実施し、後半8カ月はハーバード大学ロースクールの人権プログラムに客員研究員として所属し調査研究をおこなった。 南米は日本から遠く当該国までの往復だけでも多大の時間と費用を要するが、特に人類学の調査の場合は首都からさらに地方の奥地までフィールドワークに行くことがあり、かつアンデス地域の山岳部での調査研究には高地順応のための時間が必要なので、これまでは大学の様々な業務の合間をぬってまとまった時間をとり調査研究を実施することが困難であった。それ故、今年度は長期研修制度を利用することで、研究計画を大きく進展することができた。ペルーでは、国内避難民の人々が暮らす地域でフィールドワークを実施しているが、現在紛争が拡大しており、今後現地調査が困難になることが予測されるので、今回調査研究できたことの意義は大きく、データとしても非常に重要である。 また、人権、紛争、平和構築をめぐる研究は、従来法学や政治学の分野でおこなわれてきている。このため法学の分野で国際的に主導的役割を果たしているハーバード大学のロースクールで調査研究できたことの意義は大きい。特にハーバード大学ロースクールでは、国際連合の人権理事会や国際司法裁判所、国際刑事裁判所(ICC)、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷 (ICTY)、カンボジア特別法廷などで実務に携わる法学者、判事の話を直接きくことができたことが有益であった。また、必要な文献を論文レベルまで検索できるだけでなく、必要箇所を電子データとして直ちに送信してくれるハーバード大学図書館の充実したサービスも、研究推進のうえで非常に役立った。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年は、ペルー真実和解委員会の最終報告書が提出されてから10周年を迎える。このため、最終報告書が提出された8月に向けてペルー国内外で様々なシンポジウム、出版、マスメディアの報道、NGOや被害者団体による活動がおこなわれると予測される。このため、ペルー国内外でこれらの資料収集、調査を実施する。 また、真実和解委員会の元委員、真実和解委員会の調査や報告書作成にかかわった人々、真実和解委員会の最終報告書提出後、秘密墓地の発掘、補償プログラム(reparation)等にかかわった関係者にインタビュー調査をおこなう。 あわせてペルーの山岳部の被害が最も深刻であった地域で、国内避難民を対象におこなってきた調査のデータ分析と、それに基づく補足調査をペルーで実施する。さらに、これまで真実和解委員会が設置された国々を訪問し、資料収集を実施する。 今年度は本研究の最終年度にあたるため、これまで収集したデータの分析をし、必要に応じて補足調査、文献調査をおこなう。報告書をまとめるにあたって理論的側面での補強をするため、文献研究をするとともに、国内外の専門家と意見交換をおこなう。また、学会や国際会議で成果発表をする。並行して論文や著書の執筆を進める。
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Research Products
(4 results)