2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22402017
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西村 謙一 大阪大学, 国際教育交流センター, 准教授 (40237722)
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Keywords | フィリピン / 環境ガバナンス / 地方分権 / PEMSEA / 沿岸環境管理事業 / NGO / 官僚制 |
Research Abstract |
「東アジア海域環境管理パートナーシップ(PEMSEA)」のもとで実施されているフィリピンの沿岸環境管理事業を事例として、地方分権下における環境ガバナンスの質に影響する要素を確認することを目的に、バターン、カビテ両州の州政府と町自治体において資料収集と聞き取り調査を実施した結果、以下の点が明らかになった。 第一に、州単位での参加が基本となっている本事業では事業コーディネーターとしての州政府の役割が重要であり、この点で州知事の政治的リーダーシップは重要である。しかし、知事と州内町長が政治的同盟関係にない場合は、州全体としての円滑な事業推進が阻害されることがあるが、町長自身が沿岸管理事業に関心を持つ場合は、町長も州の政策執行に協力的になる。 第二に、選挙で首長が交代した場合でも事業を継続的に運営するには、州政府官僚組織全体の技術的・行政的な能力が重要である。これは、事業の中心的役割を果たす職員が政府内のどのような地位にあるかに、かなりの程度依存する。つまり、種々のプログラムからなる事業を動かすには、地方政府全体を事業に巻き込む必要があるが、それが可能になるのは当該政府の官僚組織の中でも知識と経験を豊富に持つ幹部級職員である。 第三に、住民主体の事業遂行が求められるPEMSEAにおいては、住民に技術的支援や政府との関係構築に関する支援を行うNGOの役割が重要である。NGOが求められる役割を十分に果たすためには、NGO、自治体、住民組織の間の公的・私的な人的ネットワークの存在が重要である。特に、伝統的にNGOと政府が対立的な関係になることが多かったフィリピンでは、NGOと政府との間で人的な相互乗り入れがあることは、両者関関係の円滑化に大きな意味を持つ。 第四に、民間企業は地域に対する技術的・財政的・人的支援において重要な役割を果たすが、その積極的参加のためには専門的人材の存在が重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は、バターン州とカビテ州に加えて、バタンガス州についてもインタビューを含む現地調査を実施する予定であったが、同州において新たに就任した知事が沿岸管理事業を優先政策としておらず、また、環境管理部局長の退職も重なり、同州政府への現地調査が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
バターン州およびカビテ州での調査を継続するとともに、調査実施が遅れていたバタンガス州について環境管理部局の関係者からの調査許可を早急にとりつけて資料収集および聞き取り調査を行う。その際の調査のポイントは、州政府官僚組織の技術的・行政的能力の実態を解明することと、地域住民とNGO、地方政府との関係を形成するに当たってどのような要素が影響を与えているのかを明らかにすることである。 また、可能であれば7月に韓国で開催されるEast Asian Seas CongressおよびPEMSEA Network of Local Governments for Sustainable Coastal Developmentに参加し、PEMSEA参加自治体の事業への取り組みを広く観察したい。
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