2012 Fiscal Year Annual Research Report
ウガンダ・アルバート湖岸の漁村に生成する共同性――移動と漁労に住まう人びと
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22402043
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Shitennoji University |
Principal Investigator |
田原 範子 四天王寺大学, 人文社会学部, 教授 (70310711)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 生活世界の映像化 / 儀礼の再編成 / 漁労社会 / 移民社会 / ウガンダ共和国 / アルル人 |
Research Abstract |
本研究は、東アフリカ・ウガンダ共和国のアルバート湖岸地域における移民社会を社会学的に調査し、移動のなかに数世代に渡って生きている人たちが、異民族と共生するなかで生成する共同性を提示すること、それを通して社会学の生活理論に新たな提言を行うことを目的としている。具体的課題として、(1)宗教的慣習・儀礼の再創造過程の把握、(2)漁労活動の協同論理についての解明を試みている。 本年度も、「フィールド班」「映像編集班」「研究成果還元班」に分かれた連携研究者および研究協力者が、①映像を用いた研究成果還元の模索、②アルバート湖岸におけるフィールドワーク、③西ナイル地域の儀礼の撮影・映像編集・上映活動を実施し、研究代表者が研究を統括した。 ①は、日本文化人類学会、日本アフリカ学会、日本社会学会に出席し、民族誌映像制作にかかわる資料を収集し、民族誌映画制作者と交流を深めた。②は、2012年8月、2013年2~3月に実施した。湖岸管理政策は、昨今の移民の増加のなかで、より取り締まりを強化している。また、石油採掘企業による周辺地域の道路整備が急速に進められて、物流やマーケットの状況にも変化がもたらされていることが明らかになった。③は、2013年3月に現地調査協力者とともに実施した。 上記の研究成果を共有し、来年度の課題を議論するために、2013年3月16日に研究会を実施した。研究報告として「漁業と周縁性:ウガンダ、カンパラのNスラムの市場とケニア、トゥルカナ湖の事例から」(森口岳)、「ウガンダの60年代~70年代の政治シーン:オボス=オフンビ家文書からみた」(梅屋潔)、映像上映として「Seven Songs for Mourning: Myel Agwara Among Alur」(柏本奈津・田原範子)、「グローバル化時代における芸術:フィジーの劇団を事例として」(岩谷洋史)が報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、具体的に(1)宗教的慣習・儀礼の再創造過程の把握、(2)漁労活動の協同論理についての解明を試みること、(3)研究成果のフィールド内外への還元を目的としている。 研究初年度より準備を重ねて、昨年3月にミエル・アグワラという最終葬送儀礼を現地の研究協力者と共に実施することができた。その準備過程も含めて儀礼を映像として記録し、編集したものを日本とウガンダで上映している。上映を通して、当研究成果の一端を、当該社会にフィードバックできたと考えている。また同資料を用いてドキュメンタリー映画を編集して作成している途中であり、(1)と(3)の課題については順調に進行している。 (2)の課題について、漁労生活の協同原理を明らかにするため、漁民のライフヒストリーを収集している。今後は、公文書などを含めた資料を収集し、漁労民と共に議論を重ねる必要がある。前者は進めつつあるものの、後者は実施中であるが困難を感じている。一つには、現地には多言語が混在してい共通言語によるコミュニケーションが難しいこと、一つには、漁労民というライフスタイルは、移動が日常的であり、継続的な議論をすることが難しいことである。こうした困難については、国内外の研究協力者と相談しながら、さらに調査研究を進める過程で克服していくつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を遂行することにより、ウガンダ共和国・アルバート湖の漁村社会の社会構造を明らかにし、他民族混住地域における共同性の生成可能性について考察を深めることができた。アルル人の移動と移民の状況、移動先と母村との関係を、出稼ぎ地・漁村と出身地・西ナイル地域の交流という観点から、ライフヒストリー、祖先崇拝の儀礼、葬送の最終儀礼という具体的な事例を通して、多層的に描き出すことができると考えている。その上で、今後の研究の推進方策を以下のように立てている。 (1)ウガンダ共和国におけるフィールドワークの継続:漁村社会には、アルル人の他、ニョロ系ムグング人、アチョリ人、ルグバラ人など居住している。今後はアルル人だけではなく、他の民族が置かれたマクロな歴史的背景と、個人的な移動の生活誌を連関させることで、多民族が混住する漁村社会の共同性原理にアプローチしたいと考えている。 (2)フィールドワークにおける映像資料の可能性を理論化:フィールドワークの成果を共有し、還元するために、本研究課題において芸術関係の研究協力者と共に、映像資料を作成し、国内外で上映した。フィールドワークにおける映像資料の使用について、今後は、映像を用いてフィールドワークをしている人びとと成果を共有し、フィールドワーク論の一端として理論化したいと考えている。 (3)漁労による地域コミュニティの比較研究:今回、日本の漁村を対象とする研究協力者により、日本の漁村とウガンダの漁村の共通点が指摘された。漁村社会には、地理的な歴史的な差異を超越するような特徴を共有していると考えられる。したがって今後の研究においては、ウガンダのみならず広く漁労コミュニティを対象とした調査研究を実施したいと考えている。
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Research Products
(9 results)