Research Abstract |
天然海域において,しばしば観測される沿岸性海底熱水活動(Shallow Water Hydrothermal system,以下SWH)は,その周辺海域に酸性化と鉄供給をもたらし,生物基礎生産の観点からは相反する影響が予想される。本研究は,最近,台湾北東沿岸域で見いだされたSWH域を生物基礎生産への影響検証に絶好の実験フィールドとしてとらえ,天然の「海洋酸性化」と「鉄供給」が海洋環境に及ぼす影響を評価することを目的としている。 平成22年度は主に,台湾亀山島東方沖の沿岸性海底熱水噴出域をモデル海域の中心として研究を進め,次の知見が得られた。 1)夏季に噴出口周辺においてダイバーによる潜行調査と傭船による観測を行い,噴出口内熱水及び周辺の海水の水温・pHや酸素・水素・塩素・硫黄同位体組成,主要化学成分の計測を行った。その結果,(1)SWHは個々に噴出温度が異なり,目視により黄泉(>110℃)・白泉(>80℃)・ガス泉の3種類に分類でき,噴出口付近では単体硫黄の豆石(直径数mm程度)が堆積している;(2)ビデオカメラにより,単体硫黄流体が噴出に伴って海底近くまで上昇し,海水により冷却され凝固される映像が撮影できた;また,(3)間欠泉のような突発的大規模爆発が調査中に観測された。これらの結果から,熱水に伴い噴出する単体硫黄は,海底深部マグマ起源であることが示唆された。 2)傭船による1km四方の広域海洋観測では,(4)pCO_2の高い表層海水が広く分布し,(5)pH値の低い海水も表層・中層に広く観測され,また,(6)Si,Pなど栄養塩の他,Mn,Fe等も通常の海水より高い値を示した。これらの結果より,広範囲にわたり「海洋酸性化」の影響と「栄養塩・微量元素」の供給が確認され,その評価の重要性が示唆された。
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