2011 Fiscal Year Annual Research Report
沿岸性海底熱水噴出の実態解明と海洋酸性化・肥沃化への影響評価
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22403001
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
張 勁 富山大学, 大学院・理工学研究部(理学), 教授 (20301822)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日下部 実 富山大学, 大学院・理工学研究部(理学), 客員教授 (20015770)
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Keywords | 沿岸性海底熱水 / 海底湧水 / 海洋酸性化 / 海洋肥沃化 / 台湾亀山島 |
Research Abstract |
本研究は,台湾北東沿岸域などの沿岸性海底熱水活動(SWH)域を生物基礎生産への影響検証に絶好の実験フィールドとして,SWHに伴う物質供給の実態把握と時空間的解析により,天然の「海洋酸性化」と「栄養塩・微量元素供給」が環境に及ぼす影響を評価する。 平成23年度は,22年度同様台湾亀山島東方沖のSWH域及び1Km四方の周辺海域を中心に研究すると同時に,国立台湾海洋大学海洋調査船「海研2号」を利用し,より広範囲におけるSWHの分布とその影響調査を行った。得られた結果は下記のとおりである。 a)潜水調査:熱水噴出孔は起伏に富んだ地形に位置し,熱水・ガスが間欠噴出していた。噴出孔は大別して2種類あり,黄色い熱水(黄泉)は大小様々な硫黄チムニーなどから噴出し,無色の熱水(白泉)は岩盤の割れ目から直接噴出する。小さい黄泉では自然硫黄流体が噴出口で凝固し,数分間隔での爆発も観察された。凝結した硫黄粒子・砂がチムニー周囲の約50m四方に堆積し,底質分布は噴出孔から離れるにつれ堆積物が減少し,砂・露岩へ変化していた。また,噴出孔からはpH2.1~3.5の熱水が噴出しており,この熱水は海水に希釈されながら噴出孔から1km離れても影響を及ぼしていた。 b)ガス試料分析:採取された噴出ガス中のガス成分比(e.g._N2/Ar)と希ガス同位体組成(e.g,^3He/^4He)から,火山ガスはマントル起源と示唆された。 c)水試料分析:熱水噴出域で採取した海水試料は,周辺海域に比べて栄養塩,クロロフィルa濃度が高かった。熱水は,高濃度の栄養塩を供給し,植物プランクトンの増殖を促し,熱水噴出孔周辺海域の基礎生産に寄与していることが実測で示された。 d)生物試料解析:噴出口付近で採取したカニの鯉から,硫黄酸化細菌や深海底生物外部共生菌が確認された。有光層にある熱水噴出孔周辺に棲息するカニが,硫黄・硫化水素に富む棲息環境に適応して細菌を共生させていると推測した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過圭2年は,主に台湾亀山島東方沖の沿岸性海底熱水活動及びその周辺海域をモデル海域として研究を進め,(1)沿岸性海底熱水活動は個々に噴出温度が異なり,黄泉・白泉・ガス泉の3種類の噴出口付近では単体硫黄の豆石が一面に堆積し,これら単体硫黄は,海底深部マグマ起源と示唆された;(2)熱水噴出域で採取した海水試料は,周辺海域に比べて栄養塩(ケイ素・リン)やクロロフィルa濃度が高く,熱水は,噴出孔周辺海域の基礎生産に寄与していることが実測で示された;(3)1km四方の観測海域にpH値の低い表層・中層海水が広く分布し,Li,Mn,Fe等が高い値を示した,等の知見が得られた。 一方,広域海洋観測において,昨年度,国立台湾海洋大学海洋調査船「海研2号」を利用したが,台風の影響で観測計画が半分ほどしかできなかった。今年度はより大型の国立台湾大学海洋研究所の研究船「海研1号」のシップタイムを獲得する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,これまで観測を行った台湾亀山島東方沖の他に,比較海域として薩摩硫黄島や竹島周辺海域の観測も加える。噴出口付近及び広域にわたり海水試料中の窒素・リンなど主要栄養塩や微少栄養塩の計測を行いながら,特にヒ素・水銀など有害重金属の濃度及び分布の精査を行う。一方,広域海洋観測において,国立台湾大学海洋研究所の研究船「海研1号」を用いる他,「淡青丸」KH-12-12次航海(薩摩硫黄島・竹島周辺海域)にも参加する。熱水噴出口周辺の水塊構造や海水の化学特性をモニタリングし,熱水の周囲海水への混合・拡散及びその変動を把握する。また,現場での海洋観測によるクロロフィルa濃度分布と高精度海色人工衛星クロロフィルa濃度分布解析を組み合わせ,熱水噴出た伴う基礎生産への影響を明らかにする。 3年間にわたる2つのモデル海域での調査・観測により,沿岸海底熱水活動域において熱水の分布と拡散,広域における鉄など栄養塩類供給の実態とクロロフィルa濃度分布の詳細を明らかにし,天然の「海洋酸性化・肥沃化」が環境に及ぼす影響を的確に評価する。●
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Research Products
(12 results)