2012 Fiscal Year Annual Research Report
国内で被害未確認の神経毒生産渦鞭毛藻の検出法開発と有毒成分の解明
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22404006
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Section | 海外学術 |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐竹 真幸 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90261495)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ポリエーテル化合物 / 渦鞭毛藻 / 神経毒 / 細胞毒 / 構造解析 |
Research Abstract |
渦鞭毛藻Gambierdiscus toxicus は仏領ポリネシアなどの熱帯亜熱帯のサンゴ礁海域に生息する魚類による食中毒シガテラの原因毒シガトキシン、マイトトキシンを生産している。Gambierdiscus toxicusの脂溶性画分には、神経毒シガトキシンが含まれている。水溶性画分には、マイトトキシン以外にも、はしご状ポリエーテル骨格に硫酸エステル基とエポキシドを有する、新規ポリ環状エーテル化合物ガンビエロキシドが含まれていることを見出した。栄養源添加海水培地を用いて、渦鞭毛藻の大量培養を行い、藻体を収穫した。藻体をメタノール抽出後、溶媒分画、各種カラムクロマトグラフィーを用いて、ガンビエロキシドの単離に成功した。培養した藻体から得られたガンビエロキシドは僅か数100μgであったが、800MHzの高磁場NMR装置を用いることによりその構造決定に成功した。ガンビエロキシドの構造は、北日本のホタテガイなどに含まれる貝毒成分イエッソトキシンと類似の構造を有していた。 メキシコ湾やフロリダ沖で赤潮を形成し、多くの魚類斃死を引き起こすことで有名な赤潮渦鞭毛藻Karenia brevisと同属であるKarenia mikimotoi国内株の有毒成分解明を行った。マウス腫瘍細胞に対する毒性を指標にして細胞毒成分ジムノシン類を単離した。ジムノシンは13個のエーテル環が縮環した化合物であることを明らかとした。ジムノシンは。中程度の細胞毒性を有していた。Karenia属の渦鞭毛藻は、世界各地で赤潮を形成し、魚類の大量斃死やヒトに対する健康被害を引き起こしている。これら渦鞭毛藻の有毒成分の構造解明により国内における潜在的な健康被害の可能性を明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神経毒の検出法の開発には、渦鞭毛藻が生産する有毒成分の単離と構造決定が必須事項である。今年度の研究において、温暖化に伴い国内での生育範囲が拡大しているシガテラ原因渦鞭毛藻Gambierdiscus toxicusから、ポリ環状エーテル化合物を単離し、その構造決定に成功した。魚類食中毒シガテラは、今後国内でも発生が増加する可能性があり、被害防止に向けて重要な知見が得られた。 赤潮有毒渦鞭毛藻Karenia mikimotoiから細胞毒成分ジムノシン類を単離し、化学構造と生物活性を明らかとした。 これらの研究成果を基に、高速液体クロマトグラフィーと質量分析装置を組み合わせたLC/MS法を用いた有毒成分の微量検出法の開発が可能となる。
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Strategy for Future Research Activity |
国外で問題となっている有毒渦鞭毛藻試料を入手する。赤潮の発生や海産食中毒の発生は突発的かつ散発的に発生するため、事件発生後の現地訪問では、赤潮が収束して試料の入手が困難な場合が多くある。その様な事態の解決のため、海外共同研究先との情報交換を行い、重要試料の確保を依頼する。得られた試料は、メタノールなどの有機溶媒で抽出を行う。検出方法の開発には、純粋な試料が重要であるので、有毒物質の精製を行う。精製の指標には、細胞毒性、魚毒性などを用いる。純粋にした有毒成分は、核磁気共鳴(NMR)スペクトルに供して、構造解析を試みる。有毒成分の生物活性を明らかとし、有毒渦鞭毛藻による魚類斃死や中毒の発生防止に貢献する。今後は、ニュージーランドで大規模赤潮被害をもたらした渦鞭毛藻Karenia brevisulcataが生産する有毒成分の構造決定と定量法開発を中心に行う。ニュージーランドの共同研究機関で渦鞭毛藻の培養を行い、供与された培養藻体からの抽出、精製を行う。精製した有毒成分の構造は、核磁気共鳴スペクトルを用いて決定する。構造の確認には、MS/MS法を用いる。精製した試料を用いて、LC/MSによる定量法を開発する。開発した定量法を用いて、ニュージーランド近海の藻類の毒性をチェックし、赤潮被害の防止対策に役立てる。
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