Research Abstract |
バングラデシュは未曾有のヒ素汚染に見舞われており,早急に安全な水を供給する必要に迫られている.本研究では,環境中の化学的因子がヒ素の吸着・溶出にどのような影響を及ぼすかを考察し,研究成果をヒ素溶出機構の解明に繋げることにより,バングラデシュにおけるヒ素汚染問題の解決に寄与することを目的にした.平成22年度の調査は,北部および中央部の5地域を対象とした. 地下水中のヒ素(As)はリン(P)のみに相関がみられ,堆積物中のヒ素は,Fe,Mn,Alに0.7以上の相関がみられた. 吸着・溶出実験に関し,NaHCO_3,NaHPO_4,Fe_2(SO_4)の水溶液にヒ素を添加して挙動をみた結果,炭酸イオンやリン酸イオンはヒ素とのイオン交換によって一旦吸着されたAsが時間とともに溶出した反面,硫酸鉄を添加した場合は,ヒ素は瞬時に吸着除去された.また,pHの影響は,pH6と8よりpH10の場合のAs溶出量が多いことが示唆された.その理由として,pH調整で使用した薬品のNa^+が,Asとイオン交換し,アルカリ性域でのAs溶出が増大されたと推察された. 平衡になったときの堆積物と水中のヒ素の濃度比であり,かつ流動モデル等に適用するために分配係数K_d(L/Kg)を求めた.K_dはControlと比較してNaHCO_3,NaHPO_4を添加したときK4は低くなり,Fe_2(SO_4)を添加したときは高くなる傾向を示した。また,pHが6,8,10におけるK4は,pH10でK_dは低くなり,Asの溶出を促進させた. さらに,K_dなどの係数を物質輸送や流動モデル式を適用して地下水中の将来の深さ方向のヒ素の挙動を把握し,安全な水源の資を得た.また,高感度加速器質量分析を用いてヒ素が蓄積した時期の地質年代を計測し,その時期は現在から7,800年前の前期完新世であることを特定した.
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Strategy for Future Research Activity |
3年間の結果を総合的にまとめ,ヒ素溶出の機構および理論構築を成し遂げる.また,さらなる吸脱着実験を試み,数値解析を通してヒ素を含まない安全な地下水を見出すことに努める.さらに,困難である有機物の溶出への影響を多少なりとも知るとともに,ヒ素が蓄積した年代は海進が生じた時期に当たることから,ヒ素の蓄積が河川由来か,海由来かを,地層構造を加味しながら明確にする。得られた結果については,学会発表を行う一方,バングラデシュ関連機関,大学研究者との話し合う機会をもつ.
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