2011 Fiscal Year Annual Research Report
ミャンマーとタイ北部における家畜寄生虫症の分子疫学と抗寄生虫薬用植物の探索
Project/Area Number |
22405037
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
片倉 賢 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 教授 (10130155)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
櫻井 達也 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 助教 (60547777)
加藤 大智 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 准教授 (00346579)
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Keywords | ミャンマー / 寄生虫 / 薬用植物 / バベシア症 / タイレリア症 / トリパノソーマ症 / 衛生昆虫 / 疫学 |
Research Abstract |
本研究は以下の目的を達成するために計画された。(1)ミャンマー、タイ北部およびバングラデシュにおける家畜に寄生する血液原虫類および蠕虫類の流行状況と系統関係を明らかにし、各種寄生虫の移動、分子進化ならびに環境適応機構を考察する。(2)上記地域おける寄生虫媒介節足動物の生息種と分布、ならびに寄生虫感染状況を明らかにする。(3)ミャンマーの伝統的薬用植物の中から抗寄生虫活性を有する薬用植物を探索し創薬に向けた基礎研究を行う。 平成23年度はミャンマーでの調査を実施できず、12月にタイ北部での調査を行った。また、繰越分として平成24年5月にバングラデシュで調査を行った。今回、569頭のミャンマー牛の抗トキソプラズマ抗体と抗ネオスポラ抗体の陽性率を解析したところ、それぞれの陽性率は1.6%、0.9%であり、組織内寄生性原虫類の感染の実体が明らかになった。また、ミャンマーの牛と水牛から採取した87個体の肝蛭成虫の核およびミトコンドリア遺伝子解析を行ったところ、80個体は巨大肝蛭Fasciola giganticaであり、本種は2つのミトコンドリアハプロタイプに分かれることが判明した。残りの7個体は精子形成のないFasciola sp.であり、こちらのハプロタイプは中国や東南アジアで報告のあるタイプと同じであり、Fasciola sp.は中国を経由してミャンマーに導入された可能性が示唆された。バングラデシュでは、犬の血液原虫の調査を新たに開始したが、PCRでバベシア陽性の個体を検出したため、現在、原虫遺伝子の解析を進めている。一方、ブドウ科の薬用植物であるVites repensのエタノール粗抽出物から抗トリパノソーマ活性成分としてresveratrol、 11-O-acetyl bergeninおよびstigmast-4-en-3-oneを分離・精製することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
準備段階から含めると、これまでミャンマー中央部、北部、南部の各地から600頭を超える牛の血液サンプルを採材し、各種血液原虫類の感染状況について解析をすすめている。本研究はミャンマーにおける寄生虫感染に関する初めての広域的調査であり、ミャンマー国内にピロプラズマ(バベシア、タイレリア)が広く蔓延していることを明らかにするとともに、牛の組織内寄生性原虫類(トキソプラズマ、ネオスポラ)の感染状況についても貴重なデータを得ることができた。また、肝蛭については少なくともFasciola giganticaとFasciola sp.の2種が存在することを初めてを明らかにした。衛生昆虫(アブ、サシバエ、ノサシバエなど)の採集も行っており、形態学的な種同定を進めている。マダニについては、Rhipicephalus (Boophilus) microplus がバベシア原虫を媒介している可能性があることをつきとめた。一方、抗トリパノソーマ活性を有する薬用植物の探索を継続しているが、今回、ブドウ科の薬用植物であり、抗がん剤としても利用されているVites repensに含有される有効成分を特定・分離することができ、家畜飼料への添加剤などとして有効利用する道筋をつけることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
牛の血液原虫であるタイレリアやバベシアおよび消化管蠕虫である肝蛭の遺伝子解析のこれまでの結果から、ミャンマーの牛の寄生虫はタイや中国など東方・北方からの家畜の移動に伴って侵入したもとの、インドやバングラデシュなど西方由来のものが混在している可能性が考えられた。そのため、データの少ないバングラデシュに調査範囲を拡大し、平成24年5月にバングラデシュで予備調査を実施した。興味深い結果が得られているため、今後、データ解析をさらにおし進めるとともに、バングラデシュでの追加調査も考えている。
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