2011 Fiscal Year Annual Research Report
バングラデシュにおける地下水砒素汚染と児童生徒の知的機能・社会生活能力
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22406022
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
稲岡 司 佐賀大学, 農学部, 教授 (60176386)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 知保 東京大学, 医学系研究科, 教授 (70220902)
永野 恵 熊本保健科学大学, 保健科学部, 教授 (10136723)
田中 美加 福岡大学, 医学部, 講師 (70412765)
牛島 佳代 福岡大学, 医学部, 講師 (10336191)
松村 康弘 桐生大学, 医療保健学部, 教授 (60181757)
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Keywords | バングラデシュ / 地下水 / 砒素汚染 / 児童生徒 / 知的機能(IQ) / 社会生活能力 / 混合汚染 |
Research Abstract |
1990年代初めに地下水砒素汚染が確認されてから20年近くたった今も、バングラデシュでは4千万人以上の人々が健康に「危険」といわれる50ppb以上の砒素濃度に汚染された地下水を日常的に飲んでいる。この地下水砒素汚染の健康影響については様々な疫学調査が報告されているが、精神的・社会的な側面に関してはほとんど報告がなく、その結果も一致してしない。本研究では砒素汚染の程度が最も高いナラヤンガンジ郡(バングラデシュの首都ダッカの南東約30km)地区の小・中学生(それぞれ9・10歳の130人と14・15歳の250人)を対象として、地下水砒素汚染が彼らの知能指数(IQ)と社会生活能力(Social Competence, SC)等に及ぼす影響について検討した。砒素の暴露指標である尿中砒素濃度を3段階(文献値から137ppb未満、137-400ppb、400ppb以上)に分けた後、これらとIQおよびSCの関連性を検討した。その結果、小・中学生の尿中砒素濃度の水準が上がると、IQおよびSCは5%水準で有意に低下した。さらに、これらの関連は社会経済状態などの他の変数をコントロールしても有意だったため、砒素暴露が中学生のIQとSCを低下させていると結論された。この結果は社会的にも大変重大な影響をもたらす可能性があるため、もっと対象者を増やすとともにさらに低年齢層でも検討する一方、砒素以外の重金属や化学物質との混合汚染の可能性や、これに対応する手段を様々なレベルで早急に検討する必要がある。 本調査ではこのほかに、小・中学生を対象として抑うつの調査を行い、また小・中学生の母親を対象として色覚異常やQOL、砒素や飲料水に対する意識調査とメンタルヘルスやソーシャルサポートに関する調査を行った。現在、それぞれの分担者が現在分析中である。来年度にはこれらをデータベース化し、相互の関連性についても検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対象者が分析上適当な数存在し、彼らの砒素暴露が適切に把握されている。一方、健康影響に関しては把握が困難なメンタル面において、様々な手法を用いてIQや社会生活能力、QOL、抑うつ、ソーシャルサポート等が評価できている。また、砒素以外がこれらに影響を与えている可能性についても検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はさらに低年齢層を対象として同様の調査を行い、砒素による健康影響が発生する年齢や暴露量についての知見を蓄積する。一方、これまで得られた資料の分析を急ぎ、データベース化を進めて、データ相互の関連性について深く検討する。これらを順次論文化し、内外の学術雑誌に投稿する。
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Research Products
(2 results)