Research Abstract |
[研究の背景と目的]視覚系の初期過程(第1次視覚野)では,視覚情報は,ガボール関数によって近似されるフィルターにより空間周波数成分で記述されている.比較的小さな両眼網膜像差はこれらのフィルターの組み合わせにより検出されると考えられている(視差エネルギーモデル).それでは,本研究で扱っているような非常に大きな網膜像差も同様のメカニズムによって検出されるのであろうか.このモデルによれば,大きな網膜像差を検出するためには,低い空間周波数領域に感度をもつ(すなわち,大きな受容野をもつ)神経細胞が必要になる.我々がこれまでに行ってきた実験では,テスト刺激が線分もしくは光点であったため,刺激を検出するメカニズムの空間周波数特性については明らかでない.そこで,当該年度は,大きな網膜像差を検出するメカニズムの空間特性について検討するために,空間周波数成分が局在している刺激パターンを用いて実験を行った.[実験方法]1次元DoG(ガウス関数の差)パターンをテスト刺激として奥行き弁別課題におけるコントラスト感度を測定した.テスト刺激における正のガウス関数の標準偏差を0.11°, 0.38°, 1.1°, 2.3°とした(負のガウス関数の標準偏差はその1.5倍).これは1.6, 0.48, 0.16, 0.08c/degの空間周波数に相当している.[結果と考察]刺激を動かさなかった場合には,網膜像差量が2°を超えるとコントラスト感度が急速に低下したが,刺激を動かした場合には,それよりもはるかに大きな網膜像差に対して高い感度が示された.また,大きな網膜像差を検出するために受容野の大きいチャンネルが働いているのであれば,刺激が大きいほうが閾値が小さくなることが予想されるが,この予想に反して,中程度の大きさをもつ刺激に対して最も高い感度が示された.これは,大きな網膜像差の検出に0.16~0.48c/deg付近に感度をもつチャンネルが寄与することを示唆している.ただし,これは被験者1名の結果であり,今後被験者数を増やしていく必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
1.DoG刺激を用いた実験の被験者数を増やす. 2.Gabor刺激を用いて実験を行う.DoG刺激の場合には,刺激の大きさと空間周波数成分が同時に変化するので,大きな網膜像差を検出するメカニズムが大きさと空間周波数のどちらに同調しているのかを明らかにすることができない.この問題を解決するために,Gabor刺激を用いて,エンベロープとキャリアを独立に操作してコントラスト感度を測定する. 3.刺激の運動の振幅と速度に対する感度を測定する.
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