Research Abstract |
研究対象[(1)画像(2)金融市場(3)群れシミュレーション】のうち,(2)金融市場に関わる課題として,昨年度に引き続き労働市場をとりあげた.また,金融危機前後の市場の振る舞いを特徴つける手法を提案した.以下で詳細を述べる. (2-A)労働市場 昨年度提案した「拡張された壷模型に基づく大卒労働市場の数理モデル」に関し,昨今の社会問題である就職活動における企業-学生間ミスマッチを定量化するため,提案モデルに対し,就職率と定員未充足率のダイアグラムを描き,これを実データに基づき描画された対応ダイアグラムと比較,得られる類似性/差異の検証および,改良の可能性を議論した.また,数理的側面として,労働市場の動的性質を計算機実験と解析的手法を併用することで明らかにした.さらに,企業の採用プロセスが学生スコアに基づき行われる場合を仮定し,その結果として創発される「内定数格差」をジニ係数によって特徴つけた.この結果は4,月に開催される電子情報通信学会非線形問題研究会で発表される. (2-B)金融危楯の特徴付け 東日本震災前後の東証株式市場の振る舞いを特徴つけるため,銘柄間相互相関を「距離」とし,多変量解析法の一つである「多次元尺度構成法」を用い,銘柄間の関係を二次元平面内散布図として可視化する方法を提案した.また,その散布図をクラスタリングし,得られる<<クラスタ数の変化>>,および,混合正規分布で散布点を当てはめた際の<<赤池情報量規準の大きさの変化>>でそれぞれ特徴つけることを試み,後者は震災前後で大きく減少することを明らかにした.さらに,銘柄間相関を「外場」とする平均場イジングモデルによって震災前後の複数銘柄価格を同時予測する方法を提案し,リーマンショック前後の為替実データに対し,有効性を数値的に検証した.これらの結果は既にいくつかの研究会で講演発表を済ませており,次年度には,より詳細な検証を加えた後,学術雑誌に投稿予定である, なお,対象 : (1)画像,(3)群れシミュレーションに関する進捗は下記のとおり. (1)画像 : 研究対象(2)金融市場に関連する要素技術として,任意次元の散布図データをポッツ・スピングラス・モデルでクラスタリングする方法を提案.その結果を研究会にて発表.この方法の統計的性能評価は次年度の課題である. (2)群れシミュレーション : 前年度までに得られていた結果を学術誌に投稿.その査読レポートに基づき,追試実験を行った.次年度では得られた知見を人間のコミュニケーション範囲の推定に用いることを計画中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では3つの研究対象を同時に取り組む研究体制をとっているが,それら各々に対し,そこから派生する適切な新課題を「芋づる式」にみつけることができている.さらに,一見独立にみえるそれら複数研究課題間の相互関係も見え始めている.例を一つ挙げれば,銘柄間の相互相関を利用した複数銘柄価格の同時推定法は,昨今問題とされている大学構内電力需要と気温の相互相関を用いた同時予測へと応用することができる([学会発表]岩山参照)従って,実データに基づくモデリングに関し,予想を越えた「相乗効果」が生まれつつある.また,この進展の背景には,指導する大学院生による堅実な「実働」がある.最終年度もこの体制を維持/深化しつつ取り組みたい
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画は順調に進んでいるものの,当初の想定には無かったいくつかの問題点も明らかになりつつある.例えば,労働市場の数理モデルでは,求職者の意思決定を「エネルギー関数」として導入するが,そこに現れるマクロなパラメータを推定する際,その指針を与える適切な実測データは存在しないことがわかった.つまり,「求人倍率」等は「観測量」である一方,求職者が企業群の中から希望企業をどのような「観点」で選択する傾向があるのか,に関する調査は今のところ,どの研究調査機関においてもなされておらず,その意味でこのパラメータは「非観測量」である.従って,今後は厚生労働省等が提供する既存データのみにとらわれず,所属する大学のキャリアセンター等にも協力を要請し.我々自らが適切な「アンケート調査」を行うことも必要であろうと考えている.
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