2012 Fiscal Year Annual Research Report
確率過程に対する統計的漸近理論と損害保険数理への応用
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22500258
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
阪本 雄二 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (70215664)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 状態空間モデル / 散漫初期化 |
Research Abstract |
離散観測に基づく確率過程の推測に関して,以下の成果を得た. (1)状態空間モデルの状態推定において,観測変数の次元が高くなるとカルマンフィルタに基づく推定アルゴリズムの実行が困難になる.つまり,大きなサイズの逆行列の計算を多数行うことになり,計算速度や数値的な精度が問題となる.その問題を回避するアプローチとして,観測変数間の相関をゼロになるような変換を行い,観測変数全体を1次元時系列化する方法がある.この方法を実装し,その計算速度や数値精度と次元の関係を調べた. (2)状態変数が非定常である時,状態推定に必要な初期値の推定ができなくなる.その時,分散の非常に大きい適当な初期分布を用いる散漫初期化というアプローチがあり,関連する多数の手法が提案されている.その多くは,初期分布の分散が大きいことを利用し,正確なアルゴリズムを簡便なものに置き換えるものである.そこで用いられる解析的な評価法に数学的な根拠が乏しく,得られた状態推定の有効性は明らかにされていなかった.本年度は,散漫初期化に関する各種の手法の数学的な正当性を考察し,首尾一貫したオーダー評価により,いくつかの手法を修正した.また,数値実験により設定する分散の大きさと状態推定の精度や初期分布の乖離の影響がなくなる時間について考察した. (3)マルコフ性を持つ時系列では,尤度関数が条件付き期待値の積で表されることを利用して,最尤推定量を求めることが一般的である.ただし,尤度関数の未知母数に関する勾配は数値的にしか求めることができないため,最尤法は準ニュートン法などの数値解法を用いて求められている.これに対して,固定区間平滑化法を利用し,尤度関数から未知母数に関連する部分が分離することで,解析的に勾配を求める手法がある.この手法を多くのモデルでも利用できるよう一般化し,数値的な精度と計算速度を確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
連続時間確率過程からの離散観測に基づく統計量の確率的な性質は,基礎となる連続時間確率過程から誘導されるが,等間隔で観測される場合など,一定の条件の下では,離散時系列として扱うことも可能であり,場合によっては直接的な結果が得られることが期待される. 本年度は,離散時系列に関する手法の諸問題を明らかにするために,状態空間モデルにおける観測変数の1次元化や初期化問題,あるいは,最尤推定量に関する最適化アルゴリズムに関して,アルゴリズムの解析的な検証や計算速度や数値的な精度を明らかにするための数値実験を行った.状態空間モデルは多くの離散時系列を包括的に扱うために有効なアプローチであると考えられているが,具体的なモデルを状態空間表現した時に観測変数や状態変数の次元が高くなったり,状態変数が定常でなくなるなどの問題がある.それらの問題が応用上どのような問題を引き起こすのかを明らかにすることに多くの時間を割いた. 離散時系列の幾何混合性や条件付きクラメール条件は,漸近展開の正当性を保証するための十分条件であり,連続時間確率過程から得られた離散観測に対しても適用可能である.したがって,連続時間確率過程に特有な確率解析的アプローチを用いずとも直接的な結果が得られると期待される.しかしながら,条件付きクラメール条件から得られる直接的な結果は非線形時系列の個別の特性と密接に関連しており,体系的な結論を得るには多くの困難があることが分かった.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き,以下の問題に取り組む. (1)状態空間モデルに対する一次元化,散漫初期化,固定区間平滑化を用いた最尤法の計算アルゴリズムに関する数値実験をARIMAモデルなど対して行い,次元と計算速度,数値精度の関係を体系的に明らかにする. (2)連続時間確率過程から得られた離散観測に基づく統計量に対して,条件付きクラメール条件とマリアバン共分散の同値性を検証する.観測間隔とレビーイノベーションの不安定性が統計量の滑らかさにいかに影響するかを明らかにする.また,GARCH モデルなどの代表的な非線形時系列に対して,レビーイノベーションの離散サンプリングである場合の統計量の漸近展開を求める.連続時間確率過程の離散観測の統計量に対する漸近展開の十分条件と比較し,マリアバン共分散の非退化性の有用性を検証する. (3)ビュールマンモデルに対する信頼係数の推定量の漸近展開を求め,そこに現れるキュミュラントの計算方法を考察する.ブートストラップ推定量と偏微分方程式の数値解法による推定量の推定効率について数値実験を行う. (4)破産確率に関するルンドベリ―の不等式の正確性を様々なサープラス過程に対して検証する.非正則関数の平均値に対する漸近展開を用いて,ルンドベリ―の不等式の上限を改善する.イノベーションがポアソン過程だけでなく,連続部分も併せ持つレビー過程に対しても破産確率を高精度で評価する. (5)ビュールマンモデルやサープラス過程の状態空間表現を求めて,状態空間モデルに対する最尤推定アルゴリズムの有効性を検証する.特に,推定誤差とルンドベリ―不等式の上限精度の関係を明らかにし,用いる漸近展開の時数の調整方法や推定精度を上げる正規化変換の導出を試みる.
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