2011 Fiscal Year Annual Research Report
慢性統合失調症患者の社会的認知機能の研究と漫画等を用いた認知技能訓練法の開発
Project/Area Number |
22500470
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
西川 隆 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (60273629)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大西 久男 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学部, 准教授 (80194231)
田中 宏明 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学部, 助教 (60364030)
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Keywords | 統合失調症 / 社会認知機能 / 語用論 / 比喩 / 皮肉 / 心の理論 |
Research Abstract |
研究の目的は、統合失調症患者の社会適応の障害を、心の理論能力、社会規範の認識、などの社会認知機能との関連において検討するとともに、4コマ漫画、笑話、川柳を素材として、メタファー・アイロニーの認知や感情認知に焦点を当てた社会技能訓練法を開発することである。平成23年度は以下の3方面で研究を実施した。 (1)今年度は比喩・皮肉の語用論的機能に焦点を当てて研究を行った。デイケア通所中の統合失調症者28名と健常対照者28名に,簡易認知機能検査(MMSE),心の理論課題(1次・2次誤信念課題)、比喩・皮肉文テスト(MSST),社会常識テストを実施し両群を比較した.結果は、MMSE,心の理論課題,比喩,皮肉,比喩誤答回避,皮肉誤答回避,社会常識テストの全ての成績に有意差を認めた.各評価の相関関係は,MMSEと比喩・比喩誤答回避,社会常識と皮肉誤答回避・MSST合計点の間に有意な相関がみられた.また,2次誤信念課題を通過した患者群は失敗した患者群よりも,有意に比喩理解が優れていた.2次誤信念課題を通過した患者群では比喩・皮肉の理解は健常群と差を認めなかった.結論として、統合失調症者は語用論的能力の障害を有しており,比喩理解は基本的な認知機能と関連があったが、皮肉理解は心の理論能力との関連が示唆された.また心の理論の障害と皮肉を文字通りに解釈する傾向は非社会的行動に対する判断力低下と関連していた.研究成果を2014年日本統合失調症学会で発表し、2015年世界作業療法士協会国際会議に演題登録した。 (2)前年度作成した4コマ漫画および笑話を素材とする評価法に関して健常者および統合失調症患者のデータを収集しつつあり、既成の語用論的機能の評価法との関連を検討中である。 (3)社会的認知機能に対する加齢の影響に関する総説を学術誌に掲載。また、統合失調症者の語用論的機能に関する総説を投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに本研究では、(1)慢性統合失調症患者の自己モニタリング機能を検討するために患者60名の身だしなみ行動と会的活動の関連に関する研究、(2)慢性統合失調症患者の「心の理論」能力と社会規範の認識を検討するために患者50名に関する誤信念課題および「奇妙な物語」課題を用いた社会認知機能の研究、(3)慢性統合失調症患者の語用論的機能を検討するために患者28名を含む比喩・皮肉理解に関する研究を終了し、成果はそれぞれ総説論文や学会にて報告した。しかし、中心的課題としての(4)新聞4コマ漫画および笑話による患者のユーモア理解の評価法と、その知見にもとづく社会技能訓練法の開発についてはいまだ十分な量のデータが集まっていない。その理由は主として、数週間の継続的追跡が予想よりも困難であり脱落例が多いことにある。治療プログラムの完成度が低く、対象者の持続した興味と動機づけを獲得できないことにあったものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の繰り越しを申請し、現在改良を加えたプログラムによる研究を継続している。主な改良点は、漫画・川柳・笑話の素材をプロジェクターで投影し、参加者全員で同じ素材を鑑賞して、他の参加者の感想を聞く過程を中心に置いたことである。これにより、対象者の興味と関心を増すことができたと思われる。 繰り越し期間の間にデータ蓄積の努力を続けるとともに、これまでに終了した研究を含めてその成果をできるだけ多くの機会に公表していきたい。
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