Research Abstract |
本研究の全体構想は,高齢者が物理的な障害物がないところで転倒する前兆や原因を解明し,将来的な転倒の発生率を高精度予測することにより,転倒防止策の提案と安全安心な生活環境の構築に資することである。本研究では,注意力減少の要因と,日常歩行中の両足の3次元時空間パラメータ(立脚/遊脚時間,歩幅,歩行速度,歩隔,爪先と床との距離,爪先角度,左右の足の位置関係など)との因果関係を調査する。そして,高齢者を対象とした前向き研究を実施して,転倒発生率を高精度で予測する方法を提案することを目的とする。平成23年度では,歩行中の被験者に提示する二重課題として,足し算の答えの正否を判断する問題(採点)と,式が成り立つように+-×÷を選択する問題(符号)の実施が可能な,スマートフォン専用アプリケーションを利用することとした。そして,座った状態で上記アプリを実施したときの解答速度,単純歩行時の歩行パラメータ,アプリを実施しながら歩行を行ったときの解答速度と歩行パラメータを求める実験を行った。歩行経路は,直線距離約100メートルの廊下を利用し,歩行パラメータは,一歩ごとの一重複歩距離,歩行周期,歩行速度,爪先高さ,最大および最小爪先角度を求めた。被験者は,理系学部,文系学部各6名の健康な男女12名である。実験の結果,「符号」の問題の方の難易度が高いという評価の一方,歩行によって「採点」の解答速度が有意に減少することを確認した。その結果,二重課題歩行によって歩幅が減少して歩行周期が延長し,歩行速度が低下することを確認した。また「採点」の場合,二重課題歩行によって最小爪先角度のみ有意な変化が見られず,「符号」の問題の場合には最大および最小爪先角度に有意差が見られなかった。さらに,歩行パラメータの変化に男女差は確認されなかったが,文系被験者の方が理系被験者よりも歩行パラメータの変化の割合が大きいことを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,健常高齢者を対象に二重課題歩行実験を行い,加齢が歩行パラメータの変化に与える特徴を捉える。 さらに,県内外の高齢者施設などに依頼して同様の実験を行うとともに,転倒経験の有無を調査し,転倒予測に活用する方法を検討する。また,理系と文系の学生によって歩行パラメータに違いが現れたことから,与える課題の難易度と被験者の得意分野との関連を新たに調査する。
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