Research Abstract |
本研究は,安全で健康増進にも役立つような登山の方法論(登山処方)の確立を目指すものである.本年度は,登山中に身体が受ける生理的な負担度を客観的なデータで表すとともに,それを元に,過度な負担がかからずに登山を行えるようなガイドラインを示すことを目的とした. 登山中の生理的な運動強度は,上り下りとも,負荷の種類(歩行路の傾斜,歩行速度,担荷重量)によらず,垂直方向の仕事率に対する二次関数の回帰式で表すことができる.この式を用いると,登山中の運動強度や,エネルギー消費量を簡便に推定でき,運動処方に活用できる.また登山の特異性を考慮した,フィールドでの体力テストの評価指標にも利用できる. 上り歩行では,運動強度が乳酸閾値を超えないように歩くことが重要である.これが達成できれば,適切な水分およびエネルギー補給を行うことで,疲労せずに長時間の運動継続が可能となる.一方,下り歩行では,運動強度が乳酸閾値を超える可能性は小さいが,ガイドラインに従い,定常的な有酸素性運動を行ったとしても,なお脚筋の疲労が起こる可能性がある,この疲労の防止方法については今後の検討課題であるが,疲労度の指標としては脚の主観的運動強度が有効である. ガイドラインについては,以下のように作成した. 1.歩行ペース:上り歩行では,最高心拍数の75%以下,そして,心肺または脚筋の主観的運動強度が「ややきつい」以下のペースで歩く.下り歩行では,脚筋の主観的運動強度が「ややきつい」以下で歩く. 2.水分補給:登山中の脱水量(ml)を,「登山時間(h)×体重(kg)×5」という式で推定し,この、70~80%の水分を定期的に補給する. 3.エネルギー補給:登山中のエネルギー消費量(kcal)を,「登山時間(h)×体重(kg)×5」という式で推定し,その70%程度のエネルギーを定期的に補給する.
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Strategy for Future Research Activity |
上記(11)に述べたとおり,現在,4年間の研究期間の半分に当たる2年間を経過したが,当初設定した4つの課題のうち,2つ目までをほぼ終了し,満足すべき結果を得ている.来年度は3)の課題に,再来年度は4)の課題に着手する予定である.また,1)や2)についても,適宜,補強的なエビデンスの収集にも努める予定である.
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