2012 Fiscal Year Annual Research Report
心と身体に障害をもつ特別支援学級児に対する「生きる力」を育む食育の先導的研究
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22500766
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
岡本 秀己 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (10159329)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 発達障害児 / 食育プログラム / 特別支援教育 / 自己効力感 / 社会性 / 調理実習 |
Research Abstract |
1昨年度、彦根市内の小学校の特別支援学級に通う発達障害児を対象とした連続食育プログラムを実施したところ、児童の食生活、食への関心、調理の実践、家庭での食に関する会話などの改善だけでなく、自己効力感の向上やコミュニケーション等の社会性の獲得に有効であることが示唆され、調理を伴う食育プログラムは食育のみでなく、特別支援教育として有効であることが明らかとなった。そこで、昨年度は、食育プログラムを改善して、再度、発達障害児用の食育プログラムを実施し、ビデオ観察による児童の行動・感情の数値化、ソーシャルスキル尺度テスト、児童の自己効力感を測定するGSESC-Rテスト等の実施により客観的な評価を行い、食育の実施の可能性、自己効力感の向上、コミュニケーションなどの社会性の獲得について検討を行った。6回の連続食育教室(調理と食育)で、個人作業では「一生懸命作業している」の反応生起率は70%を超え,作業や役割があると、より集中して作業に取り組めたが、調理説明中の集中度は、説明の開始直後・終了直前において集中が欠ける傾向があり、説明の長さ・イラスト等の使用によっても集中度に大きく影響を与えることが反応生起率から明らかとなり、更なる改善点が示めされた。「仲間関係スキル」については87.5%、「アサーション(自己表現)」という項目に関しては、62.5%の向上が見られた。保護者アンケートでは約60%の児童に「友達と協力する」「自分の意志を言葉で伝える」の項目において向上がみられた。GSESC-Rの結果においては、71%の児童の総合得点が上り、自己効力感が向上した。児童自身の評価、保護者アンケート、ビデオ観察記録からも発達障害児の自己効力感の向上が認められ、調理を伴う食育プログラムは発達障害児の特別支援教育としても有効であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)調査により、学校現場での特別支援学級児に通う発達障害児に対する食育の重要性の認識はあるが、実際に担任が指導する教科書や媒体などが無いという実態とそういうものがあればよいという要望があることを明らかにした。 2)特別支援学級児用の調理を伴う食育プログラムの作成:「好き嫌いをなくそう」「朝ごはんを食べよう」「収穫体験をしよう」「おやつについて考えよう」「感謝の心を伝えよう」「バランス良く食べよう」をテーマとし、それぞれのテーマに合った調理と食育授業内容を考案した。特に食にこだわりが多い児童に興味が持てる内容、視覚的な媒体の作成、安全面からの配慮などを中心に工夫した。 3)2年度目には特別支援学級に通う発達障害児を対象に月1回の割合で連続食育教室を実施し、ビデオ観察、児童補助者の観察記録、保護者アンケートなどのデータから、更なる改良点を見い出し、また、食育だけでなく、協調性、達成感、役割を果たす(責任感)、積極性、集中力等の面で大きな効果が認められ、本食育プログラムは特別支援教育として有効であることが示唆された。 4)3年度目は、前年度の食育教室実施に関わった保護者や福祉関係者、栄養教諭などの意見を取り入れ、食育媒体の工夫、進行、時間短縮、作業の進行や自分の役割が常に確認できるようにするなど、完成度の高いものに改良した。その食育プログラムを使い、前年度とは異なる発達障害児を対象に、再度、食育教室を実施し、科学的なエビデンスが得るために、いくつかの心理テスト、発達状態を見るテスト、ビデオによる様々な場面での障害児の行動や喜怒哀楽などの感情などを解析し、更なる効果的な授業展開のあり方を確認した。また自己肯定感や社会性の獲得などの結果から、発達障害児のための特別支援教育として、本食育プログラムが有効であることが確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
発達障害児が「生きる力」を獲得できる食育プログラムがほぼ完成したので、今後はこれをどのような形で、各小学校の特別支援学級や特別支援学校だけでなく、更に幅広く、小学校の低学年など、食育を行う現場、また、各地域の幼稚園や保育園で食ボランティアに関わっている指導員などに、実際に利用してもらえるようにすることを目的とする。そこで、 1)食育媒体(調理過程を中心とした動画)を更に見やすいものに作り直し、そこに文字や音楽、ナレーションなどを入れ、だれにでも活用できる映像媒体を作る。 2)学習指導要綱、学習指導案、本プログラムの利用法などを整備する。 3)調理手順や食育媒体を印刷すれば簡単に利用できるようにする。 以上を今年度(最終年度)の達成目標と考えている。これらを実際に現場で使ってもらい、更なる改善を行い、ネット、あるいは本などの形で利用してもらえるような方法を考えていきたいと考えている。
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Research Products
(3 results)