2011 Fiscal Year Annual Research Report
科学的方法論を主題とした理系学生の教育プログラム構築
Project/Area Number |
22500837
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松王 政浩 北海道大学, 大学院・理学研究院, 教授 (60333499)
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Keywords | 科学哲学 / 科学方法論 / 因果マルコフ条件 / 因果推論 |
Research Abstract |
科学哲学における科学的方法論の教育的応用として、昨年度は因果マルコフ条件に基づく統計的因果推論に着目し、これを教育プログラムとして実践するカンザス州立大学に赴いてこれを体験した。 本年度はこれに続き、このプログラムの教育的課題(対象学生の専門領域、教材提示方法等)を、既にカーネギーメロン大学等で一部報告されている教育効果分析と併せて検討するとともに、因果マルコフ条件分析に関して現在議論される哲学的課題(特にカーネギーメロン大学のSGS方法論に対して提起される諸課題)を吟味して、その教育への適用可能範囲について改めて検討を行った。その結果、1)哲学的議論において論じられるSGS方法論の種々の適用限界は、必ずしもSGSが他の方法に置き換えられるべきことを示唆せず、この方法論が科学的な因果推論として一定の普遍性をもつこと、2)因果マルコフ条件は、たとえば物理学専攻の学生などが直接研究に用いることのできる手法ではないにしても、「隠れた共通原因」をつねに意識しつつ実験計画を立てるなどの発想の訓練になるものであり、総じて分野を問わず思考を鍛える効果が期待できること、3)既存のウェブ教材は事例に工夫の余地があることを示した(国内学会で口頭発表)。 また今年度は、教育的応用を睨んだ他の科学哲学研究として、実験・分析プロセスにおける「科学的判断と主観・価値」の問題、および科学哲学の応用事例の一つとなる、地球温暖化科学論争における科学哲学的な問題整理にそれぞれ取り組んだ。そして前者では、現在有力視されるHダグラスの「科学的価値役割論」では科学に必要とされる価値領域が依然狭いことを示し(海外学会で口頭発表)、後者では温暖化の科学論争が科学哲学の実在論論争と概ね重なるものであり、こうした認識が論争整理に役立つことを示した(論文を公表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
科学哲学における科学方法論の中で、教育的応用が可能なものの主たる候補が絞り込まれ、中でも「因果推論」について必要な哲学的議論の整理、海外の教育実績(SGSの教育への適用)の精査をほぼ終えており、国内向けの教育プログラムを具体的に作成・実践するための準備が概ね整ったと考えられるので。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果に基づき、国内向けの理系学生向け科学方法論教育プログラムの作成に着手する。具体的には次の3点が柱となる。1)カーネギーメロン大学の「統計的因果推論」ウェブ教材を土台として、解説部分の内容・配列の見直し、事例の差し替えを進め、日本の理系大学生1-2年をターゲットとするような学習プログラムを構築する。2)因果推論の学習と平行して(もしくはそれに先行して)「確率・統計」の基礎概念(特にベイズ主義、頻度主義、尤度主義の違い)に習熟しておくことが望ましいと考えられることから、現在、エリオット・ソーバーの著書『証拠と進化』第一部の翻訳と解説を進めている。これは7-8月に出版予定であり、これを教材としてどう位置づけるかを検討する。3)本プログラムは因果推論を柱とするが、他に科学方法論関係で必要と考えられる教育項目を整理し、可能な限りプログラムに組み込む。
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Research Products
(4 results)