2011 Fiscal Year Annual Research Report
現代の生政治学的視座から見た生命倫理学の政治的・哲学的射程をめぐる研究
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22500960
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金森 修 東京大学, 大学院・情報学環, 教授 (90192541)
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Keywords | 生権力 / 生政治 / ゾーエー / ビオス / 動物霊魂 / 放射能汚染の生政治 |
Research Abstract |
今年度は、図らずも、2011年3月に起きた震災、ならびにその後の大規模原発事故という大事件、ならびに、それ以降の日本社会の対応のあり方が、まさに私がこの研究で主題化を試みていた生政治・生権力を、理論的にではなく、実際的・社会的に暴露してみせる、という事態を招来せしめることになった。その意味では、この事件そのものの不幸さを別にすれば、私にとっては、議論の重要な深化・進展の契機を構成するものだった。 やはり、特記すべきなのは、政府の対応が露わにした、一連の情報統制、情報隠蔽、一種の棄民政策、愚民政策であろう。しかもそれは、時として、国民の身体への生政治的切り込みを文字通りに具現する形をとって発現する体のものであった。例えば福島県民を対象にした、むこう数十年に亘る健康被害調査などという営為は、一見、国民の身体への繊細な気遣いの発現のようにみえる。だが、実際にはそれは、多くの県民を実質的に被曝させてしまった後で、その効果がどのように現れるのかを調査するというものであり、そこには基本的には冷厳かつ冷徹な生権力的な眼差しが控えているのは否定しがたい。 このように、今年度は、この放射性物質汚染問題を、生政治・生権力的に見るという作業にかなりのエネルギーを割いた。 ただ、それだけでは、あまりに情況拘束的なものになる。なので、それと並行して私は、より概念史的、思想史的な研究の遂行も試みた。人間と動物との間の差異や処遇を巡る思想史として、フランスで17世紀から18世紀にかけて議論された動物霊魂論の調査である。大量の資料を読破する必要性があり、消耗するものだったが、その研究成果は、次年度に新書として公刊する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
震災、原発事故という大事故を、本来理論的問題構制のはずだった本研究と交叉することができたということ。そのことによって、本研究が、より社会的・情況関与的なものになった。それは、本研究にとって、一種の成熟であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
とはいえ、単に情況拘束的なものだけでは、十分ではない。今年度の動物霊魂論調査のように、やはり或る程度アカデミズムの枠内でも有意味であるような研究構想を練る必要がある。次年度は、現代の合成生物学のような、一種、構成的・構築的・非自然的な生命操作のもつ射程を、その政治的含意も含めて、生政治的・生権力的に分析していく予定である。
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Research Products
(9 results)