2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22500962
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
城地 茂 大阪教育大学, 国際センター, 教授 (00571283)
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Keywords | 数学史 / 東アジア / 暦算 / 科学技術史 / 中国 / 関孝和 / 和算 |
Research Abstract |
本年度の蔵書調査により、従来、研究されていなかった「阿蘭陀符帳」の源流が明らかになり、城地茂・劉伯〓 ・張〓 (2011)に初歩的研究を発表することができた。報告者が予想していたのは、起源がオランダであったが、実は中国南部であることが分かった。また、和算家だけではなく、医学者や兵学者も外来数学を受容しているが、受容する態度が異なっていた。従来の研究では、こうした時間、空間、社会階層の差異への配慮が少なかったが、本研究の進展により、改められつつある。 また、「阿蘭陀符帳」(蘇州碼)と密接な関係にあった「格子乗法」であるが、スコットランドの数学者ジョン・ネイピア(John Napier,1550-1617)がネイピアの骨(計算棒、1617年)が、1628年に中国に伝わり、羅雅谷(Rho Giacomo、1593-1638)「簿算」『西洋新法暦書』(1643年)として出版された。梅文鼎(1633-1721)が、「簿算」を『暦算全書』(1678年版)本に収録したため、日本へも伝わったが、その伝来以前に、『三才発秘』陳委、1697年)の方が先に伝来し、ここから日本人の医学者や兵学者に伝わったものであった。しかし、和算家は、『算法統宗』(程大位、1592年)で「写算(鋪地錦)」として「格子乗法」を知っており、その源流は、『九章算法比類大全』、(呉敬、1450年)まで遡れることが分かった。このように、インド発祥と考えられる「格子乗法」はイスラム経由で西へ伝わった流れと、中国へ直接東回りで伝わった流れが、近世日本へ伝わったことになる。 次年度では、こうした世界全体の流れを考慮しつつも、問題を限定し、和算家の社会階矯を医学者や兵学者との比較から解明して行きたい。 また、本年度の調査により南中国の計算器具であるソロバンとの関わりも重要であるため、日本の古ソロバンと中国のソロバンを中国の3大産地との伝播を蔵書調査や現地調査を通じ、劉伯〓 ・城地茂(2011.11)として発表する事ができた。 上記のように、本研究の目的である時空を明確にして蔵書調査を行った結果、「格子乗法」やソロバンの伝来に、新たな発見があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、自然(あるいは形式)科学と人文科学の間にあり、さらには社会科学の領域も加味する意図をもって進められている。そのため、研究者の少ない領域となっている。ともすれば、独善に陥り易いが、研究の2年目に当たり、国際学会3回、国内学会2回に参加し、これまでの研究結果を国内外の研究者と共有、議論することで、最終年度への研究の基礎固めに進展が見られたため。
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Strategy for Future Research Activity |
従来は、日本国内で完結していると考えられていた和算が、本研究によって東アジアに跨ったものであることが実証されつつあるが、さらに、明代の中国数学書が西欧やイスラム、インドの数学に影響されていたことから、ユーラシア全土に渡った影響も考えなければならない事になった。これは、決して日本でのキリシタンの影響を考えるものではなく、中国経由の間接的影響である。いずれにせよ、様々な地域の数学史、科学技術史の専門家による共同研究が必要になりつつあるが、これは本研究のような個人的な研究では困難である。将来的には、共同研究の道を模索することになると思われるが、本研究の3年目に当たっては、全世界的な視野を維持しつつ、東アジアに限定した研究を行い、和算の本質に迫りたい.
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