2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22500969
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
矢野 道雄 京都産業大学, 文化学部, 教授 (40065868)
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Keywords | 天文学 / 暦法 / パンチャーンガ / ヤヴァナ・ジャータカ / ネパール / スールヤ・シッダーンタ / Sanskrit写本 / ベナレス・ヒンドゥー大学 |
Research Abstract |
古代インドの数理科学の代表である天文学と暦法に注目し、歴史的に考察する一方、伝統的な暦が、近年のコンピュータの登場によって変容しながらも生き続けている現状を調査し、伝統と近代化問題の一側面を明らかにするのが本研究の目的である。今年度はネパールとインドを訪問して次のような成果をあげた。 1. 2011年8月18日から25日までネパールのカトマンズで調査。 (1) 国立古文書館(National Archives)で館長と面会、最近のこの古文書館の活動について情報を得る。図書館員の協力により、データベースにアクセスして、本研究に関連する写本情報を得た。Pingree教授が『ヤヴァナ・ジャータカ』を校訂出版したときに用いた写本を実見して、帰国後入手。さらにデータベースではBrhadyavanajatakaと登録されているものが、実見により『ヤヴァナ・ジャータカ』の新たな写本であることが判明した。これも帰国後入手した。これらの写本に基づいて、Pingree教授の校訂本の再検討を開始。 (2) ネパールにおける伝統的な天文学のすぐれた研究者であった故Nayaraj Pallt先生の子息でサンスクリット学者のMahesh Pant氏を訪問、所蔵された貴重な文献を実見した。 (3) ネパールの暦法委員会を訪問し、委員長のSurya Dungel氏と面談。この委員会が承認している伝統暦がインド古典天文学書『スールヤ・シッダーンタ』に基づいていることを確認。 2. 8月25日から28日までベナレス・ヒンドゥー大学の伝統天文学の学部を訪問。ここでの教育がサンスクリット文献に基づきながらある程度近代天文学も取り入れていることを確認。この学部で出版されている伝統暦の作者と面談し、その暦が『スールヤ・シッダーンタ』に基き、しかもコンピュータピュタは用いず伝統的な手計算で準備されていることを確認。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現地調査でしか得ることのできない貴重な情報を得ることができた。とくに『ヤヴァナ・ジャータカ』の新たな写本の発見は、従来の校定本を批判的に再検討するために新たな資料になる。またネパールとヴァーラーナシーにおいて、伝統的な天文学と暦法が生き続けていると同時に、近代天文学を導入する動きがあることも確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
インドでは現存していない貴重な写本がネパールに存在し、これを入手することができたが、その資料を利用して、従来の校訂本を詳細に検討することが今後の課題である。 ネパールでもインドのヴァーラーナシーでも伝統的な天文学と暦法が生き続けていることを確認したが、近代天文学を導入する動きも見られる。そのようなときに、二つの方法がどのように折り合いをつけていくのか、さらに調査する必要がある。今後はとくに南インドでの伝統と近代化の問題を調査したい。
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