2011 Fiscal Year Annual Research Report
熱帯性大型底生有孔虫の産出状況から読み解く日本海の海水温上昇
Project/Area Number |
22510009
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
加藤 道雄 金沢大学, 自然システム学系, 教授 (10093741)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 政儀 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 教授 (10121295)
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Keywords | 日本海 / 大型有孔虫 / 三形性生活環 / 初室サイズ分布 / 無効分散 |
Research Abstract |
熱帯性大型有孔虫は無性生殖と有性生殖を繰り返す三形性生活環を有しているが,生息不可能と思われる水温下にある能登半島沿岸で採集された個体が,どの世代のものであるかを識別する基準を作成するため,生活環が完結している沖縄で試料を採取し,薄片を作成して初室サイズを計測した.その結果,初室サイズ分布に数十ミクロンの違いのある二つのピークを見いだした.二つのピークのうち小さなピークを示す個体数が,大きなピークを示す個体数よりも多かった.このことから,大きな初室を持つ個体が,配偶子を放出する世代であり,小さな初室を持つ個体が無性生殖(細胞分裂)を繰り返す世代であると判断された.また初室の他に第2室の形態に注目することで,配偶子から生長し無性生殖を行う三つめの世代の識別も可能となった.これは,対象としている大型有孔虫Amphistegina radiateの世代識別基準を,初めて見いだしたものである. 能登半島九十九湾で採取された個体について,沖縄の個体で確立した識別基準に基づいて世代決定を行った結果,九十九湾の個体は配偶子の接合によって生長した世代と,その世代が無性生殖で生み出し,さらに無性生殖を繰り返す世代しか存在しないと判断された.すなわち九十九湾には三形性の世代のうち二世代しか生息しておらず,大型有孔虫の生活環は完結していないことが明らかになった. 初年度には日本海が温暖化する以前から九十九湾に大型有孔虫が生息していたことを明らかにしたが,昨年度の結果は,生息理由が無効分散の結果として夏季にのみ生息していることを明らかにし,生息域を拡大したとはいえないことが明確になった.日本海において,原生動物の無効分散を確認したのは初めてのことと思われる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
大型有孔虫の三形性生活環の世代識別基準を作成し,生息可能水温よりも低くなる日本海中部沿岸域では,無効分散の結果として夏季にのみ生息することを明らかにした.日本海における原生動物を対象とした無効分散を論じることは,初めてのことと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの成果を5月の学会で公表するとともに,英文論文を投稿する計画である. 配偶子や接合子の寿命を知ることで,日本海で三形性生活環の完成している海域(生息域)はどこかを知ることが可能になると判断される.確立した世代識別法を用いて,能登半島と対馬の間の沿岸域で同様の調査を進めることで,この問題は解決できるものと考える.
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