Research Abstract |
本研究の目的は,国際GEOTRACES計画の一環として,インド洋のアラビア海から南極海に至る海域において,海水中および表層堆積物コア中の重晶石と間隙水中溶存バリウムの南北縦断分布を明らかにすることである.本年度は,海水中のバリウムの南北縦断分布を明らかにすることを目的とした. 2009年11月から2010年1月に実施された白鳳丸KH-09-5次航海では,西部インド洋における南北縦断測線において,海底堆積物間隙水試料,および表層から底層までの各層海水試料を得た.前年度(22年度)までに,海底堆積物間隙水中バリウムの鉛直分布とその地理的変動を明らかにし,表層における生物生産量の高い海底では,堆積物から底層水中に拡散する溶存バリウムのフラックスが大きいことが明らかとなった.そこで,今年度(23年度)は,9測点で得た合計200個の各層海水試料を分析し,海水中における溶存バリウムの南北縦断分布を明らかにすることを目的とした. 海水中の溶存バリウムの測定は,独自に開発した方法に依って分析・定量した.各層試料の測定で得られた溶存バリウムの分布を測点毎に比較すると,南極海(南緯62度)における鉛直分布はほぼ一様であった.このことは,南極海では海水の鉛直混合が活発であると共に,深層水の年齢が若いことの証拠でもある.一方,最北端であるブラビア海(北緯17度)では,表層から底層に向かって溶存バリウム濃度の著しい増加が認められた.そして,底層水中の溶存バリウムは,南極海のそれと比べて1.5倍高濃度であった.アラビア海の表層は生物生産が活発であること,また南極海から北上する深層水の終端域であることを考えると,生物起源物資を含む沈降粒子に取り込まれたバリウムが,深層に向かって再生し,深層水の北上とともに徐々に濃度を増加させているものと考えられる.一方,アラビア海の堆積物間隙水中の溶存バリウムは,表層数cm層において著しく高濃度であった(22年度).すなわち,アラビア海の海底境界層では,堆積物から底層水に向かって,極めて活発なバリウムの拡散が起こっていることを示している.このように,インド洋の北部域には,底層に溶存バリウムの高濃度層が形成されるものと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,インド洋における溶存バリウムの南北縦断分布,および海底堆積物の間隙水中の溶存バリウムの分布を明らかにすることを目的とした.この目的は概ね達成することができた.なお,生物生産と関係して形成していると考えられる重晶石粒子の堆積物中における分布と溶解に関する知見は,溶液化学的な溶解度の観点から考察してきた.しかしながら,重晶石を単離し,堆積物中における鉛直分布,および地理的変動を明らかにする必要があるであろう.
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Strategy for Future Research Activity |
白鳳丸KH-09-5次航海では,西部インド洋における南北縦断測線の9ヵ所において,海底堆積物コア(コア長約30cm)を採取している.今後,このコアを試料とし,微細な重晶石を単離する方法を検討し,コア中における鉛直分布および地理的変動とその要因について明らかにすることを目標とする.
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