Research Abstract |
大気中には,細菌,ウイルス,菌類,藻類,原生生物,花粉など様々な生物粒子(バイオエアロゾル)が存在している。これらは,ヒトの健康,農業,雲の発達,生物地理学的特性に重要な影響を与えると考えられているが,十分には解明されていない。その一因として,大気中の微生物の多様性,時空間的動態,輸送経路についての知見が不足していることがあげられる。今年度の本研究では,富山大学理学部屋上にて,2009年3月~2010年2月の1年間にほぼ毎週サシプリングした大気試料について,PCR-DGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)法で比較解析し,細菌群集組成の季節変化を捉えることを目指した。その結果,試料採取日によってDGGEバンドパターンにかなりの違いが見られ,大気中の細菌群集組成は変動が大きいことが示唆された。また,100箇所以上の主要なDGGEバンドの塩基配列を解析したところ,細菌由来の他に,植物の葉緑体16SrRNA遺伝子由来と思われるバンドも全体の約30%認め,スギやマツなどの花粉が飛散する春から初夏にかけて特に多く検出された。細菌由来のバンドを門レベルで分類すると,Proteobacteria, Firmicutes, Bacteroidetes, Actinobacteria, Cyanobacteria, Acidobacteriaが検出され,中でもProteobacteria, Firmicutes, Bacteroidetesの3門が全体の85%を占めた。属レベルでより細かく分類すると,Pseudomonas属とBacillus属が多く検出された。今後もPCR-GGE法を用いて解析していくことにより,富山県の大気中における細菌群集の季節変化をより詳細に把握できると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
富山県の大気中に存在する微生物群集について解析を進めるにあたり,平地にある富山大学理学部屋上を中心定点とし,山岳高所にある立山浄土山山頂も定点として,大気試料のサンプリングを行ってきている。これまで,理学部屋上の大気試料の解析は順調に進んでいるが,立山の大気試料の解析はまだ十分には進展していない。しかし,当初の計画以上に,立山における黄砂を含む積雪層中の微生物についても解析を進め,研究成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も定期的に大気試料のサンプリングを行うと共に,解析を十分に進めて参りたい。また,今年度は本研究の最終年度であるので,これまでに分子生物学的手法と培養法で検出した微生物種の系統関係を整理すると共に,それらの微生物が生態系,ヒトの健康,農業生産性に影響を及ぼす可能性の有無を,文献等を参考に検討・評価する予定である。
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