Research Abstract |
九州南部は,温帯性種と熱帯性海藻の分布推移帯・混生域となっており,本海域を分布の南限や北限とする種が多く知られている。藻揚の景観や群落構造は構成種で大きく異なることから,この海域ではわずかな緯度変化や生育環境で海中の景観が著しく変化する。近年,日本各地で生物相の変化が指摘されており,温暖化との関連が示唆されている。海藻類の植生変化も指摘されているが,温帯と亜熱帯推移帯である九州南部では,環境変動の影響をより顕著に受けることが考えられる。特に,温帯性種の分布南限群落は衰退や消失が危惧されることから,藻場植生の現状を的確に把握すると共に,今後の変動に関する影響評価が求められている。本課題では,九州の主要な藻場構成種であるカジメ科やホンダワラ科藻類,海草類の南限個体群を材料とし,1)各種群落の群落構造と個体群動態の解明,2)南限群落の環境耐性の特異性と生育環境を解明することを目的とした。 鹿児島市桜島では温帯性・亜熱帯性ホンダワラ科藻類5種(ヒジキ,ヤツマタモク,マメタワラ,キレバモク,コブクロモク)の群落構造と季節変化を明らかにし,温帯性種よりも深い水深帯に亜熱帯性種が生育することを確認した。また,4種の光合成特性を酸素電極とパルス変調クロロフィル蛍光法で測定した結果,光合成に至適な光・温度環境は種によって多様であることが示唆された。近傍の鹿児島県垂水市で測定した最近40年間の水温を解析し,冬季水温が約1℃上昇したことを明らかにした。熊本県天草下島から鹿児島県いちき串木野市にかけての地域では,温帯性ホンダワラ科藻類4種(ジョロモク,ヤナギモク,トゲモク,ノコギリモク,ヨレモク)およびアントクメの分布南限群落の群落構造を調査し,光合成特性を明らかにした。また,鹿児島県指宿市では海産顕花植物アマモの分布南限群落の群落構造と季節変化を調査し,同様に光合成特性を明らかにした。
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