2010 Fiscal Year Annual Research Report
排出量取引制度が企業の国際競争力に与える影響の分析
Project/Area Number |
22510040
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
明日香 壽川 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (90291955)
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Keywords | 排出量取引 / 国際競争力 / カーボンリーケージ / EUETS |
Research Abstract |
本研究の今年度の目的は、排出量取引制度を含む環境規制が企業活動に与える影響に関する先行研究の結果を整理すると同時に、欧州連合における排出量取引制度(EU ETS)および米国の排出量取引制度法案の分析に用いられたものと同じ方法論を用いて、日本における炭素集約産業および国際競争産業を具体的に明らかにすることである。その結果として、まず環境制約と企業活動との関係に関して先行研究を分析した。その際の争点となる仮説に、汚染逃避仮説がある。この汚染逃避仮説は、David Ricaldの理論(比較生産費説)に基づいたもので、環境保全対策コストの差異によって、国あるいは企業の競争力にマイナスの影響を与えるとする。しかし、具体的な排出量取引の関する研究では、EU ETS第1期の影響に関しては、ほぼすべての事例研究が「国際競争力喪失や炭素リーケージなどのマイナス影響はなし」としていることを明らかにしている。また、2013年からのEU ETS第3期および米国ACES法案の分析においても、一部の炭素集約産業および国際競争産業(主に、鉄鋼、アルミニウム、肥料、セメシト・石灰、無機化学)を除けば、産業全体の影響に関しては、やはり大きなマイナス影響はなしと結論づけている。さらに、現行の炭素制約の厳しさや制度設計の範囲では、1)炭素価格付けによる影響は、生産移転よりも需要低下の方が大きい、2)温暖化政策による雇用者数低下は、すでに起きている製造業の雇用者数低下に比較して小さい、なども明らかになっている。すなわち、排出量取引に関する先行研究では、汚染逃避仮説を否定している。
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