2011 Fiscal Year Annual Research Report
高エネルギー中性子測定による下層大気中の宇宙線環境の解明
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22510067
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Research Institution | National Institute of Radiological Sciences |
Principal Investigator |
矢島 千秋 独立行政法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, 主任研究員 (20392243)
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Keywords | 宇宙線 / 宇宙線被ばく / 中性子 / フォスウィッチ検出器 / エネルギースペクトル / 乗鞍観測所 |
Research Abstract |
本研究は、フォスウィッチ型シンチレーション検出器(フォスウィッチ検出器)を用いた高エネルギー宇宙線中性子の測定により、人間の活動範囲である下層大気中の宇宙線環境を解明することを目指している。本年度は、東京大学宇宙線研究所の共同利用研究の一部として乗鞍観測所(高度2,770m)を利用した高山観測実験に着手した。測定機器類は施設屋内に設置し、約2週間の長期連続データ取得を行った。データ解析により得られた実測中性子エネルギースペクトル(範囲:16~160MeV)と計算値との比較から次の結果を得た。実測中性子スペクトルには30MeVと100MeV付近にピークが現れたが、30MeVのピークは計算値には見られない。実測中性子スペクトルの100MeV付近のピーク値は計算値の約2倍であり、ピーク幅は計算値より狭くエネルギー分解能は良い。また、平地である弘前市での観測から得られた実測中性子スペクトルの高エネルギー側ピーク値(80MeV付近)と比較すると乗鞍観測所で得られた値は約6倍となっており、計算値もほぼ同じ比を示した。これは、暫定的ではあるが宇宙線中性子の高度依存性を実測により表した成果である。次に、宇宙線中性子の緯度依存性観測実験を稚内市(北緯45.4°)及び糸満市(北緯26.1°)において実施した。前年度の弘前市、鹿児島市での観測実験も含めたデータ解析の中で、環境変化が原因と考えられるゲインドリフト等の影響という問題が洗い出された。比較的影響が小さかった弘前市の観測結果からは、30MeVと80MeV付近にピークを有する実測中性子スペクトルが得られており、計算値との比較結果は前述の乗鞍観測所の結果と類似したものであった。より精確にデータの解析を行うため、追従実験を含めた対処を次年度に予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画していた宇宙線中性子の観測実験は全て実施した。データ解析においてゲインドリフト等の影響という問題が一部生じたが、屋外が中心の観測実験として想定の範囲内である。影響が小さいデータに関しては解析を進め、実測中性子スペクトルと計算値との比較考察も開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も引き続き宇宙線中性子の高度依存性観測実験、緯度依存性観測実験を実施するが、内容的には再現性確認及び問題点解決のための追従実験の意味合いが大きい。研究の中心はデータ解析とその結果に関する議論・考察に移行し、研究最終年度として成果のとりまとめを行う。
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